オールビューモニターに表示されるシステム起動のステータスでコックピット内が次第に明度を増していく状況は、否が応でも精神を高ぶらせる。例えそれが、今から行われる戦闘シミュレーションだったとしても。
何の因果か、望まずとも手に入れてしまった(デルタプラス)の機種転換訓練も兼ねて、アナハイム・エレクトロニクス社に所属するアーロンという技術者の計らいでセッティングしてもらった仮想戦闘。
元々からこの機体にインストールされていたプログラムらしいが、<インダストリアル7>での騒動でエコーズに拘束されたと聞くアーロンは、悲観的な状況を微塵も感じさせぬティーチングを施してくれた。
よほどこの機体に触れたことが嬉しかったらしいが、それ以上に彼を興奮させたのは仮想敵機の機体設定が「ありえない」ものだからという。
「流石は<デルタ>の名を冠する機体ですよ、開発者も洒落が効いている。パイロットAIも一筋縄ではいきません、あなたに勝てる見込みがあるかどうか・・・」
技術者気質に良くある悪気のない「余計な」一言だと理解したものの、自分が今までそうしてきたように見くびりには結果で示してやればいいだけのことだ。
現実の遭遇戦の如く、淡々とシミュレーションが開始された状況に気付いたリディは<デルタプラス>を巡航形態へ変形させると一気にフットペダルを踏み込む。
Gが掛からない仮想空間での最大加速は、星の流れざまから最新型以上の推力をこの機体がもっていることを容易に理解させたが、続けて表示された接近警報にリディは強烈な違和感を覚えた。
なんだ、こいつは。<デルタプラス>の全速力に、さらなる優速で後方から接近する物体。これがアーロンのいっていた仮想敵機なのか?
パイロットとしての本能が人型へと変形させた刹那、モニター側面から光刃のように出現した航宙戦闘機は、兵器概念において一番「ありえない」黄金色を纏っていた。
太陽光に映える金色の機体は滑らかに、そして瞬間的にシルエットを人型へと変形させて眼前に留まる。<デルタガンダム>とモニターに表示された機体データを見やり、リディはその正体を全て悟った。
技術の壁によって生まれることの無かった幻の可変機。先程の完璧な機動から、あれに設定されたAIもきっと、幻の機体に乗り損ねたエースパイロットの戦闘データによってもたらされているのだろう。
「確か、その頃はクワトロ・バジーナと名乗っていたか・・・これではリベンジだな・・・赤い彗星への」
自嘲的な笑みを湛えながら、リディはウェポンセレクターをビームサーベルへ合わせる。同時に<デルタガンダム>も全推力で迫り来て-<デルタ>を冠する現と幻は、時代と次元を超えて、今相打つ!!続きを読む