「穂積八束の憲法学の中心をなすのは「唯一最高無限にして独立」といわれる主権の概念である。
主権という概念は、16世紀末、フランス王制の対封建勢力・対神聖ローマ皇帝・対ローマ教皇闘争を正当化するためにつくられた概念であって、主意主義神学の神概念の世俗化された形態である。
主意主義神学によれば、神は世界を超越しており、世界およびその法則は神の意志、神の恣意によってつくられる。
地上の主権者もまた、法秩序を超越した存在であり、法秩序はその恣意によって創られるが、主権者自体はその秩序に拘束されない。
神が奇蹟によって世界の法則を破るように、主権者も国家緊急権によって法を破ることができる。
このような思想の背景には、超越神の一神教というユダヤ・キリスト教的世界観があることはいうまでもない。穂積の法理論はその中心たる主権概念において、きわめて西洋的な法理論である。」
上の主権概念をつくった人物は「国際法の父」という評価を持つジャン・ボダンである。
日本の憲法には国民主権も君主主権も人民主権も不要であると理解した方は方は、ブロガーに執筆意欲を与える一日一押人気ブログランキングをクリック!
当時、フランス王はフランス国内の封建勢力とフランス国外の神聖ローマ皇帝の板挟みに遭い苦しんでおり、そこでジャン・ボダンがフランス王を擁護するために、それまで漠然とした権力を意味する言葉に過ぎなかった「主権」に次の新定義を施したのである。
「フランスの主権は、フランスの君主のみにありて、フランス国内においては絶対にして無制限であり、フランス国外に対して最高である。」
ジャン・ボダンの主権論は、ヨーロッパにおいて主権国家を確立し国際法を大いに発展させたものの、ジャン・ジャック・ルソーがこれを悪用して君主主権を人民主権に逆転させて君主に対する人民の闘争を煽動鼓吹し、フランス暴力革命を引き起こしたのである。
しかし我が日本の歴史はフランスの歴史と違う。7世紀に我が国の大王は支那皇帝を頂点とする冊封体制から独立して天子(天皇)となり、明治維新の王政復古と廃藩置県が日本国内の封建制度を廃止し、1890年の帝国憲法の発効から天皇は憲法に遵う立憲君主となった。
だから穂積八束がジャン・ボダンの主権概念を19世紀末から20世紀初頭の日本に直輸入してこれを帝国憲法学秩序にあてはめ天皇主権説を唱えたのは、あまりに無謀にして無茶であり、また有害かつ不必要でもあり、穂積自身が「予の国体論は之を唱うる既に三十年、而も世の風潮と合わず、後進の熱誠を以て之を継続する者になし、今は孤城落日の感あるなり」(1909年)と慨嘆していたのである。
穂積の天皇主権説に対して「言を国体にかりて、ひたすらに専制的の思想を鼓吹し、立憲政治の仮装の下に其の実は専制政治を行わんとするもの」という批判を浴びせた美濃部達吉の天皇機関説は次のようなものであった。
「国土臣民を統治する権限は国家という法人にあり、天皇は国の元首として統治権を総攬(一手に掌握)し憲法に遵いこれを行使する国家の一機関である」
端的に言ってしまえば、天皇機関説とは、国家という法人が統治権を所有し、天皇が国家の元首として憲法に遵い統治権を総攬し行使するというものである。
所長が思うに、およそ日本国を構成する日本人の中で天皇は最も高貴な人であり、皇室は源平の血をひく神武天皇の雑系子孫である我々土着日本人の御本家にあたるから、天皇および皇室が日本国民を代表して日本国を統治する権限を所有する即ち統治権の主体となっても、それは国家が統治権を所有することでもあり、天皇機関説は価値のある学説なのだろうか。
ただ所有権とは、所有物に対する絶対的支配権(使用、収益、処分)であり、所有物をどのように使用しても、利益を上げても、処分してもよいというものであるが、伊藤博文の憲法義解は文武天皇の詔「天下を調(ととの)へたまい平げたまい公民を恵みたまい撫でたまわむ」を引いて「所謂しらすとは即ち統治の義に外ならず。蓋し祖宗その天職を重んじ君主の徳は八州臣民を統治するに在って一人一家に亨奉するの私事に非ざることを示されたり。これ即ち憲法の拠て以てその基礎と為すところなり」とあるから、天皇は統治権を所有(私有)するものではないという美濃部の天皇機関説が帝国憲法の解釈として正しいのであろう。
もし所長が天皇主権説か天皇機関説かいずれかに与しなければならないとすれば、躊躇なく天皇機関説に賛同する。それは天皇主権説が余りに時代錯誤かつ荒唐無稽で、立憲君主制自由主義議会制デモクラシーを明示的に定める帝国憲法とは相容れないからである。
だから上杉慎吉も元々は天皇機関説論者であったのに、ヨーロッパ留学中の1907年夏にジュネーブでルソー思想の虜になってしまい、日本に帰国するや穂積八束の唯一の後継者となり天皇主権説を唱え始めたのである。
穂積は民衆と議会勢力に対する不信感からジャン・ボダンの君主主権論を輸入して天皇主権説を唱え、ジャン・ジャック・ルソーがジャン・ボダンの君主主権論を悪用して君主制を破壊する革命を煽動したように、ルソーにかぶれて極左化した上杉慎吉は、天皇主権説を悪用して天皇自身に立憲君主制自由主義議会制デモクラシーを破壊させる錦旗革命を煽動したのである。
しかし天皇主権説が荒唐無稽であったことは変わりなかったから、上杉慎吉は美濃部達吉に敗れ、上杉の門弟であった貴族院議員の菊池武夫が1935年に美濃部の天皇機関説にかみついたものの、美濃部は穏やかに反論して菊池を諭し貴族院議員の拍手喝采を浴び、菊池は発言を自ら控え、天皇主権説は天皇機関説に大惨敗を喫したのである。
里見岸雄は次のように述べている。
「昭和10年に起こった天皇機関説事件の結果、政治的に機関説は斥けられたけれども、学説としては確かに主体説(註、天皇主権説)を圧倒し、長年、日本の支配的位置を占めたのであり、また、機関説国禁の厄に遭遇した際、それまで機関説を奉じていた学者で、自分の説は誤っていたから主体説の軍門に降伏すると世間に発表した者は一人もいなかったのである。
ただ、大学の講壇やその他の公の場所における講演並びに文書の上では、もはや天皇は国家の主権者ではなく最高機関であるということを表明することを敢えてなし得なかったというだけで、積極的に主体説に転換した人はなかったのである。
それで大学などの憲法講義においては、一方保身のため、他方、主体説を講義しないため、多くは憲法第一条から第四条までは省くというような苦肉の策に出たのである。美濃部博士の追われた後の東大などはことにそうだったのである」(天皇とは何か―憲法・歴史・国体)
ところがGHQが昭和天皇と一般国民を人質に取り、3度目の原爆投下をチラつかせて国民主権を定める日本国憲法の受諾を日本政府に強要するや否や、天皇主権説を否定する美濃部達吉の弟子であった宮沢俊義が、日本国憲法の制定を正当化するために上杉の天皇主権説を悪用して八月革命なるものを唱えたのである。
日本国のポツダム宣言の受諾が日本国内に法律上の革命を起こして主権を天皇から国民へ移し、帝国憲法を失効させたのであるというのである。
宮沢俊義自身が日本の降伏後、帝国憲法のデモクラシー性を認めてポツダム宣言の履行にあたり帝国憲法改正の不要を唱えていたというのに!
宮沢俊義はまるで朝鮮人である。息を吐くように嘘を吐き続けたのである。それなのに宮沢俊義そして彼の虚偽学説を継いだ芦部信喜そして彼らの弟子、孫弟子、亜流、傍流の憲法学者によって、宮沢の八月革命説が憲法学界の通説にされてしまっているのだから、戦後の日本国は恐ろしい。
憲法改正は国家の大事であり、これを憲法学者に委ねることは余りに危険である。我々一般人が正統な憲法書を読み、法曹界から曲学阿世の学者を追放し、政界から赤色売国奴を叩き落とさなければならない。
そして浅間山にフランス暴力革命によって虐殺されたフランス人を慰霊する社か碑を建立しなければならない。我が国の憲法学界が戦前から今日に至るまでフランス法思想に呪われ続けているのは、たぶん彼らの祟りだろうから。
<参考文献>
・日本憲法思想史 (講談社学術文庫)
・天皇とは何か―憲法・歴史・国体
・正統の哲学 異端の思想―「人権」「平等」「民主」の禍毒
・天皇 2
<関連記事>
・日テレの盗撮から占領憲法を考える 占領憲法1条と3条と99条の欠陥
・日本の民主主義の始祖は第36代孝徳天皇
・浅間山、歴史を飲みこむ―天明の大噴火(ものがたり日本 歴史の事件簿)
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シェイエスの革命思想を無批判に論拠とした カールシュミットや 亡命ユダヤ人ケルゼンの説を援用し 皇国憲を論ずる方も多いようですが
欧州のローカルな状況にしか適用不能な革命思想を「主権」だの「憲法制定権力」だの偽装した学術用語風の政治スローガンの剽窃で 我が邦に適用せんというのだから乱暴な話しでしょうTBさせてください
私も近々、八月革命説批判を紹介したいと思っています。
ご存知かもしれませんが、この説は丸山真男の与太話を宮沢がパクったという有力な説もあります。
管理人さんと私は憲法改正に関しては別系統のようですが、現憲法に対する批判精神は同じうするもののようです。
今後も更新楽しみにしています。では失礼します。
今も昔も現代も古代も、日本の国柄を無視して外国の法制度や思想を日本の直輸入し、日本国に害を及ぼす知識人は後を絶ちません。
主権は国際法の国家主権だけで充分で、国内法の人民主権、国民主権、君主主権が立憲政治を破壊する禍々しいもので日本にとって主権論争が不毛であることを出来るだけ多くの日本人に知ってもらいたいものです。
私は占領憲法無効・帝国憲法復元部分改正論者ですが、篠原さんは占領憲法有効改正派ということになるのでしょうか。
出来れば建設的に議論していきたいものですね。http://oncon.seesaa.net/article/41889549.html
http://blogs.yahoo.co.jp/inosisi650/17137577.html
>丸山真男の与太話を宮沢がパクったという有力説
東京帝大憲法研究委員会で、憲法の新しい形態について研究を始め、そこで宮沢と同席していた政治思想史専門家の丸山真男がこう発言したというのです。
「日本国憲法の基本原理は、八月十四日で崩壊し、代って新しい基本原理が生まれたのではないか。歴史的に言えば、これは八月革命と呼ぶのが正しいのではないか」
これは鵜飼信成という京城大学元教授が、あくまで「伝聞だ」と断った上で紹介したものですから「有力」といえるかどうかは疑問ではありますが、それ以外の方面からも指摘されているようです。
> 私は占領憲法無効・帝国憲法復元部分改正論者ですが、篠原さんは占領憲法有効改正派ということになるのでしょうか。
それへの回答はコメント欄という限られたスペースで回答しますと誤解されかねませんので、今日のところは控えさせてください。
ただ、ここで紹介されている里見岸雄博士もまた現行憲法96条に基づく改正を望まれていましたし、私の尊敬する国際政治学者の神川彦松博士もそうなのです。(苦笑)
ただ里見博士は、「現憲法無効論―憲法恢弘の法理」(井上孚麿著/日本教文社1975)の中で、子供扱いされているのです。
私は「上には上がいるものだなぁ」と感嘆してしまい、という訳で、井上孚麿を尊敬しています(笑)。http://oncon.seesaa.net/article/76054301.html
しかし井上孚麿の主張内容の概略は私も存じています。といいますのは昭和35年前後の憲法調査会にて発言された内容が昭和39年の「憲法無効論に関する報告書」(憲法調査会特別部会編)で紹介されていまして、そちらを拝読しましたから。管理人様は菅原裕(例の東京裁判での弁護人)の無効論に関しては評価なさらないのでしょうか。
最後に、誤解があってはいけませんので少しだけ申し上げれば、私は日本国憲法無効論が最も『法理論上は』優れていると考えていますし、現憲法に正統性は無く(日本国憲法として有効ではある)、現憲法を改正しても正当性が付与されることもない。しかし現憲法の改正が無効論を抹殺することにはならない。そう考えています。
菅原裕の憲法失効論も素晴らしいものです。
http://oncon.seesaa.net/article/47506177.html
ただ私は菅原の主張よりも井上の主張に感激させられました。
何と言いますか、憲法に限らず法学関係の名著は入手困難ですよね。
古本屋をあたっても戦時国際法の文献が殆どないですし。復刊ドットコムに復刊申請を行いましょうか。
>古本屋をあたっても
私は以前、大阪市立中央図書館と大阪市内のすべての区立図書館の膨大な蔵書を専用検索器であたりましたが、井上孚麿の著書は一冊もありませんでした。。。
>復刊ドットコムに復刊申請を行いましょうか。
復刊していただけるなら即、買いですね。