【国際司法裁判所の成立】
24、連合国と国際司法裁判所
一九三九年九月に勃発した第二次ヨーロッパ大戦は、国際連盟および常設国際司法裁判所を殆ど機能停止状態に陥らせ、両者は国際平和の回復に全く寄与しなかったにもかかわらず、連合国は、戦争中に早くも戦後の世界に国際連盟と同じく複数の国際機関を統括する国際機構を設置する必要性を感じて、一九四四年夏、米英ソ中の四ヶ国の代表はワシントン郊外のダンバートン・オークスに参集し、国際連盟に代わって戦後の世界秩序を形成する国際機構の組織および権能を議論した。アメリカは国内事情を優先して国際連盟の創設時からこれに加盟しておらず、またソ連は一九三四年に国際連盟に加盟したものの、フィンランドに侵攻した際(冬戦争、一九三九年十一月~一九四〇年三月)、ソ連を侵略国と認定した連盟理事会の全会一致の表決によって連盟から除名されており(一九三九年十二月十四日)、この両国が連合国内の指導的地位および世界の覇権(ヘゲモニー)を掌握した第二次世界大戦末期の国際情勢においては、国際連盟がそのまま復活することは不可能であった。この政治情勢が、反枢軸軍事同盟たる連合国を戦後においても解散させることなく、戦勝国に都合の良い世界秩序を維持する国際機構「The United Nations(連合国)」として存続させたのであるが、常設国際司法裁判所は特に米ソ両国に嫌悪される経歴を有していない国際機関であったので、名称を国際司法裁判所と改めて復活することができたのである。
一九四五年四月、サンフランシスコにおける連合国会議の前にワシントンに参集した連合国法律家委員会は、常設国際司法裁判所規程に若干の修正を加えて国際司法裁判所規程とし、これがダンバートン・オークス会議の憲章草案と共に連合国会議に付議されて、第二次世界大戦後の連合国憲章と憲章の付属書国際司法裁判所規程となったのであった。
しかしながら国際司法裁判所規程は、憲章第九十二条にも明記されているように、前の常設国際司法裁判所規程に則して制定された為に、事項的範囲および主体的範囲における常設国際司法裁判所の限定的にして脆弱な管轄権は、改良されることなくそのまま国際司法裁判所に相続されており、国際司法裁判所が管轄する紛争は、前述の三種類の紛争しかなく、しかも何れの場合においても国際司法裁判所の管轄権は、紛争当事国間の事前の合意(司法的解決条約の締結または選択条項受諾の宣言)もしくは事後の合意(コンプロミー)を基礎として初めて生じるものであって、紛争当事国の同意を得なければ、国際司法裁判所といえども国家間の紛争には手も足も出せないままなのである(1)。
そして実に、これこそが、絶対にして平等の主権(最高の意思決定権限)を持つ国家の特徴であり、主権の存在ゆえに国家群の水平的並存状態にならざるを得ない世界の現実なのである。国際法の本質と起源を解説したイギリスのホールが著した国際法第八版(一九二四年)いわく、
「各国家は独立の存在であって、どんな統制にも服さず、かつ自己よりも上位のものを認めない。一般の福祉のために法を定める権限を委任された個人、もしくは個人の団体というものは、なんら存在しないのである。国家が妥当な検討を行ったうえ、良心にもとづいて自らこれに服する義務があると感ずる規則だけが、その国家を拘束するものである。したがって、もし各国家が、厳密な意味における法、ないしは法に類するものと呼びうるものに、服さなければならないものであるならば、諸国家は一般の同意による一群の諸規則を、その起源がどうであろうとも、人為法として容認するか、そうでない場合には、各国を律すべき一般の原則に関して、意見の絶対的正の理論を世界中が認めたとしても、一国家の義務の尺度は、かような絶対的正の命ずるところに求められるのでなく、国家間において実定法として承認されている規則のうちに見出されるものである。」
「国際法にはどんな司法的、または行政的の機関も存在しないから、国家が自ら不当な取り扱いを受けたと考え、満足すべき弁済を得るために、すでにあらゆる平和的手段を尽くした場合には、実力によって自らのために救済を強要する方法をとっても、何らさしつかえないこととなる。かようにして国際法は、戦争を、その決定に効力を付与するために許された方式の一つとして認めている。」と…(2)。
(1)田岡【国際法Ⅲ】九十頁。
(2)東京裁判研究会編【パル判決上】三〇七、三八九~三九〇頁。
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