2005年09月11日

国民のための戦時国際法講義 17

平和の善悪 17、空戦平和主義
【平和の善悪】


17、空戦平和主義

 さて世界戦史上はじめて実戦効果を上げた空爆は、一九一一年十一月リビアのトリポリ上空において、イタリア軍の偵察機がトルコ軍に対して実施した索敵爆撃である。しかしながらイタリア・トルコ戦争とバルカン戦争では、航空機は実際あまり活躍しなかった為に、第一次欧州大戦前の世人の多くは空爆の効果を軽視し、軍事専門家の間でも、当時の飛行機が搭載し得る爆弾の重量から推論して、将来の戦争における空爆の実効性を疑う者がいた。科学技術は日進月歩であるから、もちろん一部の有識者の間では、航空機の性能向上に伴い空爆が恐ろしい効果を持つに至ることを正確に予想した者もいたが、彼らの多くは、この予想と同時に、空戦の生み出す惨害が諸国民をして反省せしめ、遂には戦争そのものを廃止せしめるに至るであろうとの予想を抱き、空戦平和主義を提唱したのである。それは、戦争が航空機を発達させ、航空機が戦争の惨害を増大させ最終的には戦争そのものを死に至らしめるという戦争自滅論である。

 「空戦の結果の恐るべきを見て、遂に諸国家はかかる結果を避けんが為に、戦争自身を廃止せんとするに至るであろう。戦争を廃止する最良の方法は、結局戦争をして益々恐るべきものとすることに在るのではないか。」(ポール・フォーシーユ)

 「飛行機が我々にもたらすものは平和の将来である。その及ぼす惨害の大なるには何人も辟易して、これに敢えて刃向かおうとする程の人間離れをした無謀な国家はなくなるであろう。」(シャルル・リシエ)

 我が国においても同様の意見が当時の学者によって提唱された。末広重雄博士が京都法学会雑誌に掲載した「飛空機関と将来の戦争」と題する論説は、明治四十四年(一九一一)年すなわちイタリア・トルコ戦争開始の数ヶ月前に書かれたものであるが、その爆撃に関する法理論は、この時代のものとしては極めて進歩的であり、軍事目標主義、予告不要主義を採る点において、第一次世界大戦後の空戦法学説とその趣旨を等しくする。しかしこの論説の最後も、上記に紹介した学者と同一傾向の楽観説によって結ばれているのである。

 「空中戦闘力すなわち飛行機関の使用により、戦争は益々破壊的となり非人道的となるべし。然れども其の甚だしきに伴いて国家間の紛議を最後の手段に訴うることを慎むこと一層切なるべく、たとえ一旦やむを得ず干戈に訴うるも、戦争の災害の及ぶ所大なるだけ戦敗国人心の動揺甚だしく、戦争は将来益々短期となり比較的少なき費用と人命とを失うて平和を回復することを得べく、戦争の非人道的となるは反って人道的となる所以なり。軍事上飛行機関の使用は結局人類社会の為に喜ぶべし。」

 これらの学者の希望的観測は、第一次欧州大戦の経験によって破られたにもかかわらず、大戦後においても、航空機の発達によって人類にもたらされるであろう将来戦の惨禍が、世人によって正しく認識されるならば、戦争は廃止され得ると信じる人は跡を絶たず、多くの国際法学者が、国際法による空爆の禁止もしくは制限が焦眉の急であることを訴えずに、国際法は空戦を規律できるものではなく、空戦の惨禍が限りないことを誇張して、反戦平和主義を煽り立て、民衆の戦争嫌悪の感情を強めたのである…(1)。 
 
 国際法学者が空戦平和主義思想を吹聴し、石原莞爾が戦史研究にこれを採り入れ世界最終戦論を生み出し、最終戦争の前段階である対米(対ソ)持久戦争の準備戦として満州事変を強行し、満州国建国が尾崎秀実らゾルゲ機関を日本に招き寄せ、尾崎ら共産主義者が東亜新秩序の実現を狙って支那事変の解決を妨害し、日本を対米英戦へ誘導したのである。  
 歴史家が国際法史に視点を移せば、従来にはない新しい歴史観を成立させることができる。それは、第二次世界大戦―大東亜戦争と第二次欧州大戦―を引き起こした張本人は、反戦平和主義思想に取り憑かれた国際法学者であり、彼らこそニュルンベルク裁判と東京裁判で「平和に対する罪」によって断罪されるべき真A級戦犯であった、との皮肉な戦争史観である。 
 過去の歴史を回顧するという人の営みは、山を眺めることに似ている。日本の富士山は一つである。しかし人がこの山を眺める日時や場所、角度を変えれば、目に映る富士山もその容姿を変え、これを仰ぎ見る者は、十人十色の感想を抱きバラエティに富む富嶽図を描くことができる。それらを楽しむことが富士見物の醍醐味であろう。大東亜戦争とは戦史学における富士山であり、本来の歴史学は人を万学へ誘う娯楽文学なのである。だから「日本国民は中韓両国民と同じ歴史観を共有せよ!」などという朝日新聞の喚き散らす脅迫まがいの説教は、歴史観の多様性を否定する全体主義的思想の発露であるばかりか、歴史学から娯楽性を奪い、日本の子供を歴史学から離れさせ、その学力低下に拍車をかける危険性を孕むのである。もはや朝日新聞は日本国民にとってハタ迷惑な騒音公害でしかない。


(1)田岡【空襲と国際法】三十三~三十五頁。



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posted by 森羅万象の歴史家 at 20:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 国民のための戦時国際法講義 | 更新情報をチェックする
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