2005年09月11日

国民のための戦時国際法講義 14

戦争論の核心 14、占領憲法九条の解釈


【戦争論の核心】


14、占領憲法九条の解釈

 ホイットニー准将以下GHQ民政局はマッカーサー・ノートに基づき昭和二十一年二月三日から僅か六日間で総司令部草案を作成し、十日にこれをマッカーサーに提出した。ノートの第二原則は、草案第八条に盛り込まれたのであるが、その際に第二原則にあった「自国の安全を保全するための手段としての戦争をも放棄する」が削除された。

 「国家の主権的権利としての戦争は廃棄される。武力による威嚇または武力の行使は、他国との紛争を解決する手段としては、永久に放棄される。陸軍、海軍、空軍、その他の戦力は認められず、交戦権は日本に与えられない。」(総司令部案第八条)

 一九八四年十一月、西修教授がケーディスと直接会見し、なぜ民政局はこのような修正を行ったのか質問したところ、彼は「非現実的と思ったから」と答えたという(1)。

 日本政府は総司令部草案を日本語に翻訳してこれに基づき憲法改正草案を作成し、総司令部案第八条に若干の字句の修正を加えて、これを九条に移し、昭和二十一年六月二十日に開会された第九十回帝国議会に政府の改正草案を提出した。そしてこれが衆議院に設置された芦田均を長とする特別委員会で審議された際に、日本の丸腰状態の永続化を危惧する芦田委員長が、占領軍総司令部に気づかせぬまま、我が国の自衛権を留保し将来における自衛軍の再建を合法化するという含みを九条に持たせる為に、九条第二項に「前項の目的を達するため」という字句を挿入し、今日の憲法九条が成立したのである。

 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 戦後日本では、この憲法九条という一つの短文から多数の解釈文つまり学説が派生し論争を巻き起こしている。「自衛の為の戦争を含め一切の戦争および戦力を放棄している」とする説、「自衛の為といえども戦力の保持は許されないが、戦力に該当しない実力、すなわち自衛力の保持は許される」とする説、「憲法九条に法的規範性を認めず、主権国家に自衛権が留保されている限り、自衛の為の戦力は当然に保持し得る」とする説などがあり(2)、筆者が以前聞いた亀井静香代議士の談話によれば、九条の解釈は全部で二十数種類におよぶという。

 筆者の目には、一つの条項から多数の解釈が発生すること自体、占領憲法が最高法規の名に値しないインチキである証拠で、九条論争など乱痴気騒ぎにしか見えないのだが、ここでは、第九条第二項に秘められた芦田均の企図に沿い、占領憲法の枠内で何とか我が国の防衛を可能にしようと努力する良心的な憲法学者の学説を紹介しよう。

 「前項の目的とは、憲法九条一項に、国家が放棄し、為さぬとしている行動、詳しく言えば、前述の如く、国際紛争解決の手段として、戦争、武力の威嚇又は行使を為さぬということである。そして、そのことが貫徹されることが、同条第二項に、前項の目的を達する為、ということである。そして、その為に、同条二項は、更に戦力を保持しないことを規定するのである。

 ところで、同条第一項では、前述の如く、国際紛争解決の手段としての戦争、その他一定の行動を放棄し、国際紛争解決の手段としてでなく、例えば自衛の為にこれらの行動を為すことは、これを放棄していない。

 故に、この憲法第九条第一項の目的を達する為に、同条第二項が戦力を保持しない、とするのも、国際紛争解決の手段として行う戦争その他一定の行動をなす為にする戦力の保持についていうことは明らかである。したがって例えば、自衛の為にする戦力保持は禁止されたものではない。」(昭和二十七年、佐々木惣一京都大学名誉教授)

 「ただ注意すべきことは、本条項が戦争、武力威嚇、または武力行使を放棄したのは、国際紛争解決の手段たることを条件とするものであって、無条件に放棄したものではないということである。したがって国際紛争を解決する手段に使わない戦争、すなわち侵略戦争でない戦争(自衛戦争、制裁戦争)は、本条一項の放棄(禁止)の範囲ではない。」(昭和二十八年、宇都宮志静男元防衛大学校教授)

 「なるほど、憲法第九条第二項は、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない、国の交戦権はこれを認めないと定めている。しかし、この第二項の規定は、第一項の目的を達するための規定である。

 第一項の目的というのは、国際紛争を解決する手段としての戦争は永久にこれを放棄するということである。すなわち第二項の規定は、この第一項の目的制約を受けている規定である。そこで、軍備を設けない、また国の交戦権はこれを認めないと定めた第二項の規定は国際紛争を解決する手段としての戦争のための軍備はこれを保持しないし、また国の交戦権も認めないということなのである。
 
 侵略に対する抵抗すなわち純然たる自衛の為の軍備をどうするかということについては、憲法は何も定めてはいないのである。自衛の為の軍備はこれを保持せよとも定めていなければ、保持してはならないとも定めてはいないのである。それ故に、純然たる自衛の為の軍備を設けるか設けないかは、違憲合憲の問題とは関係なく、その時々に日本国の自由に決定し得る問題なのである。このことは何を意味するか。日本がたとえ自衛軍を設けたとしても、それが憲法に違反するという問題は生じないということである。

 もちろん、自衛の為の軍備であれば、自ら限度がある。この限度を超える軍備を設けることは、憲法の認めないところである。
 
 もっとも、自衛の為の軍備の程度も、それは相対的なものであって、その時々の国際的また社会的諸条件などによって定まる。それ故に、日本が軍備を設けた時、それが自衛軍かそうでないかは、それを設けた国家の客観的意図によって定まるというの外はない。」(昭和三十二年、大石義雄京都大名誉教授)

 以上に掲げたマッカーサー・ノート第二原則と総司令部草案第八条の内容、そして占領憲法九条の解釈の乱立とは、実は一九二八年の不戦条約の締結以降、人類が陥った戦争論もしくは戦争観の混乱そのものであり、これが国際法学と憲法学を殊更に煩雑難解なものに変貌させ、一般国民を法学から遠ざけるのである。
 
 もし共産中国が日本の固有の領土である尖閣諸島を奪取するならば、共産中国は、日米(主に在日米軍)と台湾間の連絡を遮断し、台湾を東西より包囲挟撃することができるばかりか、沖縄本島に侵攻する為の足掛かりを獲得し、尖閣諸島に付随する広大な領海と排他的経済水域とそれらの海底に埋蔵されている膨大な資源を手中に収めることができる。現在の尖閣諸島は共産中国にとって喉から手が出るほど欲しい垂涎の戦略要衝である。

 そこで中国共産党が軍を動かし、日本に侵略されている中国の魚釣諸島を奪還するという「旧領回復」の大義名分を掲げ、尖閣諸島へ軍事侵攻を開始し、これに対して日本政府は直ちに我が国の個別的自衛権を発動、自衛隊に防衛出動を命令し、空自と海自が共同作戦をもって、尖閣諸島に向かい東シナ海を南航中の中共海軍の艦隊を全滅させたと仮定しよう。
 
 中国共産党は、この日中間の武力衝突事件を、日本の侵略行為に対する共産中国の自衛戦争であると主張し、日本の武力行使を非難するに違いない。

 他方日本国民にとっては、この日本政府の防衛措置は紛れもなく共産中国の侵略行為に対する日本国の自衛権の行使であり自衛戦争である。だが同時にこれは、第三者の立場から見れば、尖閣諸島の領有権をめぐる日中両国間の紛争を日本側の有利に解決する為の武力の行使であろう。

 従って、たとえ第九条原案に加えられた芦田修正によって日本国軍隊が出現する可能性が生じてきたことに気づいた極東委員会が総司令部を通じて日本政府に第六十六条第二項「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」(文民条項)を占領憲法典に追加挿入させたという経緯(3)があるにせよ、占領憲法が最高法規として有効であり、第九条がマッカーサーの立法意思とオルテガの説く戦争の本質を尊重する解釈を施されるならば、日本政府の防衛措置は明白に憲法違反であり、占領憲法第九条は我が国に「自衛の為の戦争を含め一切の戦争および戦力の放棄」を強要していると言わざるを得ないのである。

 実際、一九五〇年元旦の日本国民に対するメッセージの中で、マッカーサーは、憲法九条は日本の自衛権を否定していない、と強調したが、これは米軍の沖縄駐留は合憲であるという意味にすぎず(4)、朝鮮戦争が勃発するまで、彼は「丸腰日本」の安全を確保する為には米軍の沖縄駐留だけで十分であり、日本の再軍備は不要であると確信していたのであった。
 
 憲法九条は日本の国権の発動としての戦争と国際紛争解決のための武力の行使を放棄し、かつ日本の国防軍の保持と交戦権の行使を禁止する。これは明白に国防の禁止である。

 そして繰り返すが、国家の防衛とは国家の生存と同義であるから、第九条は独立主権国家としての我が国の生存そのものを否定している。これが占領憲法の真実なのである。だから昭和二十一年(一九四六)六月二十八、二十九日、政府の憲法改正草案の審議が行われた衆議院本会議において、

 「野坂氏は国家正当防衛権による戦争は正当なりとせらるるようであるが、私はかくの如きことを認めることが有害であると思うのであります。近年の戦争の多くは国家防衛権の名において行われたることは顕著なる事実であります。故に正当防衛権を認めることが戦争を誘発する所以であると思うのであります。野坂氏のご意見の如きは有益無害の議論と私は考えます。」

という吉田茂首相の答弁に対して、共産党を代表する野坂参三代議士は、

 「要するに当憲法第二章(第九条)は、我が国の自衛権を放棄して民族の独立を危うくする危険がある。それ故に我が党は、民族独立の為にこの憲法に反対しなければならない。」(第九十回帝国議会速記録)

という反対演説を行い第九条の規定に真正面から猛然と反対したのである。
 
 占領軍による日本の自由デモクラシーの蹂躙を熟知する今日の我々の目には、共産党が占領憲法九条に反対し得たという史実は奇異に映る。江藤淳氏はこれについて、

 「当時日本共産党は占領政策の一翼を担わされる立場にあり、特に野坂参三氏は、第九条の起草者ケーディス民政局次長の厚い信任を得ていたという事情を斟酌しなければならない。つまり共産党はそのころ安心してものが言える立場にあり、政府はそうでなかったという政治状況を無視して、これを草案批判が『自由』だった例証に挙げるのは、小林直樹氏がよほど知的に鈍感でなければ、論点のすり替えの不誠実を犯している証拠と断ぜざるを得ないのである。」

と解説されている。おそらく占領軍総司令部は、占領憲法の審議が日本の政府および議会の胸元に占領軍の銃剣が突きつけられた状況下で実施されていたことを隠蔽し、後世の日本国民をして、占領憲法はこれに反対する自由が保障された議会によって審議を尽くされた後、可決された正当なる日本の憲法である、と錯覚させる為に、野坂の反対演説に「お目こぼし」を与えたのであろうが、ともかく新憲法の成立にあたって共産党所属代議士の全員が反対投票を行い、さらに成立後についても反対を留保した。共産党が憲法九条に反対したことそれ自体は、我が国の政党として真に正しい主張であり態度であった(5)。
 
 因みに共産党が占領憲法九条の守護者に転向し、自衛隊と日米同盟の解体を目指す反戦平和の政党を演じ始めるのは、彼らがスターリンの命令に基づき一九五二年五月~七月にかけて敢行した非合法暴力革命闘争が、吉田茂の創設した治安警察部隊(警備隊、保安隊)によって阻止された以後のことである。その目的はコミンテルン二十八年テーゼに基づき日本国外の「反日」共産主義国軍隊を日本国内に誘致し、共産革命を実現し現在の占領憲法体制を破壊することであることは言うまでもない。

 共産党および社会党は断じて護憲政党ではない。なぜなら、もし彼らが本当に護憲主義者ならば、立憲自由主義議会制デモクラシー君主制を擁護し、占領憲法秩序の維持に絶対必要不可欠な皇室の繁栄を図る努力を惜しまないはずだからである。

 筆者は占領憲法制定の過程を長々と述べてきたが、要するに、戦争とは、オルテガの言う通り、聖戦であれ無名の帥(大義名分を欠いた戦)であれ、或いは自衛であれ侵攻であれ、すべて国際紛争を解決する為の手段であり、決闘であり、政策なのである。従って戦争を消滅させ恒久平和を実現する道は、

1、戦争よりも合理的かつ有効な国際紛争を解決する手段を創造する。

もしくは、

2、国際紛争そのものを消滅させる。

以外にない。

 世界各国の国民がそれぞれの自国内でサモアの人々のごとく平和で豊かな生活を送ることが可能であったとしても、1もしくは2が実現されなければ、戦争は国家が自力救済を図る手段として必要なのである。
 
 日本で念仏平和主義者が戦争の消滅と恒久平和の招来を念じ「平和の尊さ、戦争の悲惨さ」を訴え護憲平和主義を叫んでも、純粋無垢な高校生達が戦争反対のプラカードを掲げ楽器を演奏しながら平和を求めるデモ行進と署名活動を行っても、朝日新聞以下の反日左翼マスコミが占領憲法九条を崇拝し、毎年八月六~十五日に日本軍に関する反日虚偽報道を繰り返しても、それらは単なる時間と体力と資源の浪費にすぎないのであって、戦争の消滅には全然役立たない。

 ただエントロピー(電力の消費に伴い排出される二酸化炭素や熱など諸々の廃棄物のことで、簡単にいえばゴミ。反日マスコミとは正真正銘のマスゴミである)を無意味に増大させ地球環境を汚染するばかりなのである。
 
 大東亜戦争に敗北した後の日本に蔓延する反戦平和運動に熱中している良心的な日本人および撫順戦犯管理所で中国共産党に洗脳された元日本軍将兵(中帰連の老人)の反日虚言を根拠に日本軍を犯罪集団に貶める「戦争と罪責」という反日偽書を刊行した不養生な精神医学者の野田正彰、そして野田を平和学の講師として招聘したことによって関西学院大学が真理探究の学府ではないことを自ら暴露してしまった同大学当局は、戦争と平和を考える前に、一九三四年のハーグ国際アカデミーにおいてレンヌ大学教授エミール・ジローによって呈された以下の苦言を良薬として服用し、まず頭を冷やさねばなるまい(6)。

 「侵略を阻止し禁遏するためには、国家政策の手段としての戦争に訴えることの不正を宣言しただけでは、十分ではない。侵略の定義を作ることも大して役には立たぬ。国際組織の全体を不戦条約によって宣言された新しい観念の線に作り直さねばならない。さもなくば新観念は現実性なく生命なきものとなる。

 平和をプラトニックな願望や、根のない気まぐれや、抽象的な宣言や、言葉やジェスチャーで安直に入手できると信じるのは幼稚の極みであり、幻想の極致である。

 古いことわざに結果を求める人は手段を求めるという。手段を捨てる者は、まさに結果を捨てるものである。」

 それでは世界恒久平和を実現するための1、2の道は果たして本当に実現可能な手段であるか否か?この命題の解答を探求するために、まず二十世紀の国際社会において試みられ、そして挫折した「平和への努力」を振り返ってみよう。


(1)西【日本国憲法を考える】八十五頁。
(2)佐藤和男【憲法九条、侵略戦争、東京裁判】三十二~三十五頁。
(3)極東委員会が憲法に文民条項を強制挿入した目的は、軍部大臣現役武官制度の復活を未然に防止することにあったという。同委員会は日本の軍国主義化の原因をこの制度に求めたのである。しかしこの歴史観は誤謬である。

 昭和十一年に同制度が復活した後も、依然として議会が予算協賛権を行使し政府と軍部を支配していたからである。一九三四年に陸軍省軍事課員の池田純久が出版した「軍事行政」と題する著書にも、議会は軍事予算の審議を通して間接的に軍を監督する、と記述されており、戦前の軍人は帝国憲法を理解し議会の持つ強大な権限をよく認識していた。
 
 そもそもシビリアン・コントロールとは、軍事面におけるデモクラシーのことで、国民の代表である政治家が軍事(軍政、軍令)を支配する制度である。

 軍政(軍の人事、兵力量、予算編成)は行政権の範疇に入るが、軍令(作戦用兵)は行政ではなく統帥権(佐々木惣一博士の解説に従えば、軍の軍事行動および軍事行動の準備に付き軍を指揮する権限を指し、簡単に言えば、軍隊を動かす権限)に属する。

 もし現役の軍人が軍政を所管する国防大臣(あるいはその他の国務大臣)に就任しても、彼が議会に選ばれた内閣総理大臣によって任免されるならば、それはシビリアン・コントロール上なんら問題はないのである。

 そして我が国において支那事変を拡大長期化させ日本を対米英戦に誘導した最高責任者は、軍部ではなく近衛文麿という文民総理であったことを考えると、憲法六十六条もまた大東亜戦争に対する無知と無反省の産物であると言えよう。
(4)片岡【さらば吉田茂】一三四頁。
(5)江藤淳【一九四六年憲法その拘束】一五九頁、佐藤【憲法九条、侵略戦争、東京裁判】四十三頁。
(6)田岡良一【国際法上の自衛権】三〇四頁。


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posted by 森羅万象の歴史家 at 20:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 国民のための戦時国際法講義 | 更新情報をチェックする
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