2005年09月07日

国民のための戦時国際法講義 9

戦時国際法を学ぶ意義の考察 9、戦国時代の到来
【戦時国際法を学ぶ意義の考察】


9、戦国時代の到来

 佐藤和男博士によれば、今日の国際社会とは未だに組織化ないし統合の完成しない社会であり、日本の歴史で言えば大阪の夏の陣が終わった後か或いはそれ以前の関ヶ原の戦いが終わった後ぐらいの国内社会情勢と見たほうがよいという(1)。
 関ヶ原の合戦では、徳川家康の東軍が石田三成や宇喜多秀家らの率いる西軍主力を撃破したとはいえ、大坂城には豊臣秀頼を擁する西軍総大将の毛利輝元が居り、会津では上杉景勝が伊達政宗と戦い、信州上田には巧妙な遅滞作戦を用いて徳川秀忠の大軍を翻弄した真田昌幸が徳川の大軍を三度迎撃する気概を示し、九州、四国では古豪大名の島津義弘と長曽我部盛親が戦力を温存しており、日本各地には依然として西軍の精鋭が活動していた。さらに九州では東軍きっての謀将黒田如水が天下取りの野望を秘めて西軍諸将の留守城を次々と陥落させ勢力の拡大を図っており、当時の日本の情勢は再び戦国時代へ突入する可能性を孕んでいた。だが徳川家康は巧妙なる政戦謀略を駆使し、西軍の残存勢力を徳川家に屈服させ或いは帰順させ江戸幕府の樹立に成功し、一六一五年に豊臣家を滅ぼし三百年の太平の世を開いたのである。
 第二次世界大戦後、西側自由主義陣営を率いたアメリカはユーラシア大陸周縁(リムランド)諸国と連合してソ連に支配された東側赤色全体主義陣営を包囲封鎖し、ソ連の崩壊と解体に成功したとはいえ、共産中国は内部に無数の問題を抱えながらも経済力と軍事力を強大化させ、我が国を始め周辺諸国にとって恐るべき脅威となっている。仮にアメリカがロシア、日本、台湾、フィリピン、インド、アフガニスタン、カザフスタンなどの中央アジア諸国と連携して共産中国を崩壊へ導いても、支那大陸はソ連のごとく或いはユーゴスラビアのごとく四分五裂し、周辺諸国とくに朝鮮と台湾と亡命チベット人の独立運動を匿うインドを巻き込みながら長い戦乱状態に陥る公算が大きい。これは歴代の支那帝国崩壊後の支那史を知る者ならば誰しも首肯し得る推測であろう。アメリカにしても支那大陸の分裂を助長し分割統治を画策することはあっても、アメリカの脅威となる支那大陸の再統一を支援することはあるまい。

 元連合国事務総長ガリの予想によれば、将来的に主権国家の数は三百を超え、水資源をめぐる国家間紛争が頻発するという。
 一九九二年、ヨーロッパ各国は「マーストリヒト条約」を締結し欧州共同体(EC)の屋上屋を重ねて欧州連合(EU)を結成し共通単一通貨ユーロを実現した。今後もしも欧州連合がヨーロッパの完全なる政治統合を実現しユーロ帝国に発展しても、これは西ローマ帝国を過去の栄光、国家の模範として憧憬するヨーロッパ人が過去に何度も繰り返してきたローマ帝国再興運動に過ぎない。カロリンガ王朝のシャルルマーニュが八〇〇年にローマ帝国に戴冠されたことも、九六二年に神聖ローマ帝国が成立したことも、ローマ帝国再興の思想である。一五一九年にハプスブルク家のスペイン王カルロス一世がカール五世として神聖ローマ帝国の帝位を獲得し西欧に覇権を唱えてアメリカ大陸を含む世界帝国の確立を夢見たことも、一八〇四年にフランス皇帝に即位したナポレオンがヨーロッパを席捲したこともローマ帝国再興思想の発露であった。ヨーロッパの政治統合構想とはいわばヨーロッパ固有の夢であり癖であって、非ヨーロッパ圏が輸入し模倣すべき普遍的価値を有する思想ではない。しかもヨーロッパ各国がユーロ帝国を実現せんとする目的は、共通単一通貨ユーロと同様に、ヨーロッパ全体の政治、軍事、経済、技術の競争力を向上させ、日本、アメリカ、共産中国、インド、東南アジア諸国に勝利し、再び世界の覇権を掌握することにあるのだから、ヨーロッパの政治統合構想とは未来における国家間競争の更なる激化を暗示するものであり、マルクス・レーニン主義者が希求する国家の死滅を予兆するものではない。歴史上、帝国の誕生とは分裂の序章であり、帝国は必ず複数の国家へ分裂する宿命を背負っているからである。そして旧ソ連圏に非ざる地域においても独立主権国家の樹立を求める民族紛争が噴出していることを考慮すれば、ガリの予想は正鵠を射ていると言えよう。
 従って現在の国際潮流の基調は政治的ボーダフル(増国境)であり、インターネットに象徴される情報通信交通技術の飛躍的発展は、ボーダレス(無国境)ではなくオーバーボーダー時代(越国境)を招来する。当然、無数の「外国世論の内政干渉」「厄災」「犯罪」「悪魔」が国境を越えて全国民に襲いかかって来るであろう。特に大量破壊兵器の技術情報は止め処もなく拡散し、かつて石原莞爾が、最終戦争時代の戦闘単位は「個人」となり個人によって使用され得る「マッチ箱」並みの大破壊兵器が出現する、と予言したごとく、国際犯罪組織や国際カルト宗教団体が、個人を戦闘単位としてトランクケース型核爆弾や手紙型細菌兵器など、A(原子力)B(生物)C(化学)E(電子)兵器の他、我々の想像を越える手段を用い大規模な不正規戦、テロ攻撃を国家全体に仕掛けてくることが予想される。もし我々日本国民が自分の愛する者の生存を希望するならば、否が応でも国防軍の再建と治安警察の拡大強化やABC兵器に対抗する地下シェルターの急速整備、スパイ防止法の制定等を政府と議会に要求するだけでなく、我々自身が武士とならなければならない。
 もはや時代は「水と安全はタダである」と意識的または無意識的に思い込んでいる痴呆的平和主義者に安寧繁栄の享受と生存を許さないのである。
 国際社会が国家間紛争の頻発を防止できない戦国時代にあって戦争の惨禍を極小化させる為の叡智は、反戦平和主義ではなく戦時国際法である。特に軍事的必要と人道的配慮の調和の上に成立する戦時法規は非交戦者や負傷者の救済に重要な役割を果たすであろう。


(1)佐藤和男【国際法と日本】二九頁。



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posted by 森羅万象の歴史家 at 18:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 国民のための戦時国際法講義 | 更新情報をチェックする
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