昭和十五年(一九四〇)二月二十八日、第七十五回帝国議会衆議院決算委員会において、畑俊六陸軍大臣は、陸軍の国防費に関する福田関次郎代議士(民政党)の質疑に対して、陸軍の装備充実の目標を「不敗の態勢」構築に置き、装備充実の範囲を国家の財政経済その他の状態を考慮して不敗の態勢に必要な最小限度に止め、ある装備については敵に劣っても、別の装備については敵に優るという重点主義をとる旨を応答し、次のように言明した(1)。
「ノモンハンに関しますることは秘密会において説明いたしましたから、細部に立ち入ることは憚ります。唯ここで私が一言申し上ぐることは、ノモンハンにおいて実に尊き犠牲を払いましたこの経験というものは、日本の陸軍に対しては実に偉大なものであります。この偉大な教訓は吾々は遺憾なく之を利用致しまして、現にもう既に著手をして居るものもありまするし、又将来といえどもこの為には全力を尽くして行くつもりであります。そうして以てこのノモンハンの広野に与えた血は決して無益に使わないつもりでありますから、この点は一つ御安心を願いたいとこう思って居ります(中略)。
吾々は所謂精神教育一点張りで戦争は出来るとは考えて居りませぬ。要するのに正当なる訓練と卓越せる統帥とそこに日進月歩の技術を利用いたしました兵器の装備と、この三者が相合致して初めて戦勝の途が開けるのであります。吾々といたしましてはこの統帥ならびに正当なる訓練ということに付いて全力を尽くして居りますけれども、同時に軍政当局といたしましては所謂日進月歩の兵器を国軍の為に採用いたしまして、之をこの精良なる軍隊に与えて、そうしてそこに初めて遺憾なく皇軍の威力を発揮し得るものと考えて居るのであります。」
そして三月三十日、畑俊六陸相と閑院宮載仁参謀総長は、沢田茂参謀次長、富永恭次第一部長、神田正種総務部長、阿南惟幾次官、武藤章軍務局長ら省部首脳を集めて会議を開き、「重点主義と節用主義の徹底的励行」という予算編成方針(昭和十四年七月四日閣議決定)に準拠する大蔵省(2)によって削減された陸軍予算から装備拡充費用を捻出するために、十五年中には政戦謀略のあらゆる手段を講じて支那事変の和平処理に邁進し、年末に至ってその見込みが立たない時には、十六年初頭から自発的に撤兵を開始し、十八年中には、上海付近および蒙疆の一角を残して全部を撤兵する方針を申し合わせたのである。
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