2024年01月07日

大日本帝国の勝負手「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」-戦史修正のお知らせ

 ネット掲示板とかyoutube動画に大東亜戦争に関する虚偽が蔓延しているので、所長は「石原莞爾と尾崎秀実の戦い」国民のための大東亜戦争史1928―56を以下のように 加筆修正しました(強調部分が加筆修正箇所)。

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 69、攻勢終末点

 インド洋は、資源に恵まれている環インド洋諸国とそこから重要資源を輸入している東西洋諸国の大動脈であり、その戦略的価値は、アッツ、キスカ、ミッドウェー、ガダルカナル、ソロモン、ニューギニアとは比較にならないほど巨大である。
 日本海軍のインド洋制圧が昭和十七年中に一時的にせよ実現すれば、北アフリカ戦線のドイツ軍はイギリス第八軍を撃破してスエズと近東を占領し膨大な石油資源を確保できた。またビルマ方面の日本陸軍は、ガンジス川河口を擁するインド東部ベンガル地方に侵攻し、イギリス本土からの補給を喪失したインド方面のイギリス軍を撃滅し、ベンガル湾のカルカッタとチッタゴンからインド東北部アッサムを経て昆明と重慶に至る米英最後の援蒋ルートを遮断できた。そうなればイギリスは大幅に戦力国力を衰退させ、ドイツはソ連に対して更に戦力を集中してスターリングラードを占領し、コーカサスからヴォルガ川およびドン川を経てロシア中心部に至るソ連の輸送路を遮断できた。ソ連はイギリスの支援と対ドイツ戦を支えるコーカサスの石油(バクー油田産出)を喪失し、日本は、インド、ビルマ、タイ、フランス領インドシナ、北中南支那(汪兆銘政権)、内蒙古、満洲から中華民国重慶政府を包囲して蒋介石の屈服を図り、支那戦線を整理して戦力国力の弾発力を恢復するための端緒を掴み得た。

 前年十一月十五日大本営政府連絡会議によって次のように決定された「対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案」の要領二と四を遂行するための絶好機が僥倖にも我が国に舞い込んで来たのである。

対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案 

要領

一 帝国は迅速なる武力戦を遂行し東亜および西南太平洋に於ける米英蘭の根拠を覆滅し戦略上優位の態勢を確立すると共に重要資源地域ならび主要交通線を確保して長期自給自足の態勢を整う。凡有手段を尽くして適時米海軍主力を誘致し之を撃滅するに勉む。

二 日独伊三国協力して先ず英の屈伏を図る。
(一)帝国は左の諸方策を執る。
(イ)豪州印度に対し政略および 通商破壊等の手段に依り英本国との連鎖を遮断し其の離反を策す。
(ロ)「ビルマ」の独立を促進し其の成果を利導して印度の独立を刺戟す。

(二)独伊をして左の諸方策を執らしむるに勉む。
(イ)近東、北阿、「スエズ」作戦を実施すると共に印度に対し施策を行う。 
(ロ)対英封鎖を強化す。  
(ハ)情勢之を許すに至らば英本土上陸作戦を実施す。

(三)三国は協力して左の諸方策を執る。
(イ)印度洋を通ずる三国間の連絡提携に勉む。
(ロ)海上作戦を強化す。
(ハ)占領地資源の対英流出を禁絶す。

三 日独伊は協力し対英措置と並行して米の戦意を喪失せしむるに勉む。
(一)帝国は左の諸方策を執る。
(イ)比島の取扱は差し当たり現政権を存続せしむることとし戦争終末促進に資する如く考慮す。
(ロ)対米通商破壊戦を徹底す。
(ハ)支那および南洋資源の対米流出を禁絶す。
(ニ)対米宣伝謀略を強化す。
 其の重点を米海軍主力の極東への誘致ならび極東政策の反省と日米戦無意義指摘に置き米国輿論の厭戦誘致に導く。
(ホ)米濠関係の隔離を図る。

(二)独伊をして左の諸方策を執らしむるに勉む。
(イ)大西洋および印度洋方面に於ける対米海上攻勢を強化す。
(ロ)中南米に対する軍事、経済、政治的攻勢を強化す。

四 支那に対しては対米英蘭戦争特に其の作戦の成果を活用して援蒋の禁絶、抗戦力の減殺を図り在支租界の把握、南洋華僑の利導、作戦の強化等政戦略の手段を積極化し以て重慶政権の屈伏を促進す(2)。


 ガダルカナル攻防戦(昭和十七年八月七日~昭和十八年二月八日)を含め約一年七ヶ月間に亘る南東太平洋作戦において、我が軍は、航空機約八千機(熟練操縦員約五千人)、艦船約七十隻、投入兵力三十万のうち約十三万人を喪失して敗北した。我が国は、ドイツ軍の東進攻勢に呼応してソ連を挟撃し、或いはインド、近東、北アフリカ方面のイギリス軍を挟撃し、インド洋で日独間の連絡提携を図り両国に対する連合国の包囲網を突き破りイギリスを屈伏させ、イギリスにアメリカを日独伊三国との講和へ誘導させる戦略(対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案の二と七)を逸失したばかりか、日本本土防衛の要衝サイパンを堅固に死守する為の貴重な戦力と時間をも喪失してしまい、サイパン陥落後に総理大臣を辞職した東條英機大将は、

 「海軍ノ実力ニ関スル判断ヲ誤レリ、而カモ海軍ニ引キヅラレタ。攻勢終末ヲ誤レリ、印度洋ニ方向ヲ採ルベキデアツタ」

と深く後悔したのであった(機密戦争日誌昭和二十年二月十六日の条)。

71、連合軍の大反攻

 御前会議(昭和十八年九月三十日)が絶対国防圏を設定した後も、我が軍はこれを第一線ではなく後方支援線と考える海軍の主導により、攻勢終末点を越えた南東太平洋島嶼群に分散配置されていた為に、自由に攻撃の目標と時期とを選択し戦力を集中するアメリカ軍に各個撃破され、総崩れとなってしまった。相手の油断を突き其の弱点を討つための攻勢の利が日本軍からアメリカ軍に転移していたのである

 続いて七月五日、我が陸軍はインパール作戦を中止した。インド独立の使命感に燃える我が第十五軍は、制空権と補給能力の欠如を克服すべく可能な限り軽装備で急進撃を図り、緒戦では目覚ましい戦果を挙げてインパールを包囲しイギリス軍首脳を狼狽させたが、絶え間なく物資の空輸を受ける敵軍の戦車部隊が守備するインパールには突入できなかった。

 だが大戦を通して、我が軍は、海上護衛戦と通商基地機能破壊戦の意義たる「戦勝の要諦は味方の兵站(補給全般)を防衛し敵の兵站を破壊するにあり」という至極当然の戦理を実践しない帝国海軍の拙劣な前方展開戦略と、時流の航空優先観念から増長した、彼我航空戦力の優劣を無視する航空絶対思想とに災いされて、防御陣地の構築および補給物資の蓄積と将兵の練成という守勢の利を最大限に活用できず、味方の陸海空軍の戦力を統合集中し、地上に姿を晒して居る敵軍の上陸部隊を、地下、海上、空中から立体的に迎撃、包囲殲滅するという「陸海空軍三位一体・全方位立体包囲」戦術を一度も採ることができなかった。

80、昭和天皇とローマ法王庁

 昭和十六年十一月二日、国策再検討終了後の東條首相上奏の際に、昭和天皇は、我が国とローマ法王庁との間に連絡のある事が戦争の終結時期において好都合なるべき事、又世界の情報蒐集の上にも便宜あることならびに、法王庁の全世界に及ぼす精神的支配力の強大なること等を考えて、東條首相に「時局収拾にローマ法王を考えてみては如何かと思う」と提案され、バチカン市国への公使派遣を要望された(1)。東條内閣はこれに同意し、十五日、大本営政府連絡会議は戦争終結の機会を捕捉するために対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案の七に「速に南米諸国、スウェーデン、ポルトガル、法王庁に対する外交ならびに宣伝の施策を強化す」と盛り込んだ(2)そして東郷外相はバチカン特派公使としてフランス大使館参事官の原田健を起用することに決め、この人事を昭和十七年(一九四二)二月二十四日の閣議に附議決定、上奏御裁可を経て二十六日に発令し、外務省は次の談話を発表した(3)。


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