2020年08月09日

類は友を呼ぶ猪瀬直樹の「昭和16年8月の敗戦」

 内閣総力戦研究所が昭和16年7月末から9月初旬に亘り南方戦争を仮想演習し「日本の敗北」という結果を導き出した。だからそれを熱心に見学していた東條英機陸相は総理大臣就任後には日米和平交渉の妥結に尽力したが、ハルノートを拒絶し対米英開戦を決定した。

 12月16日の第78回帝国議会において東條首相が国民に説明した開戦理由は、ハルノートの対日要求中の次の三点「帝国の支那及び仏印よりの全面的撤兵」「南京政府の否認」「三国条約の破棄」の受諾が不可能であったことである。

 だから東條内閣が対米英開戦を決断した原因は、近衛内閣が参謀本部の猛反対を恫喝してトラウトマン和平工作を打切り「国民政府を対手とせず之を抹殺する」の近衛声明を発表して支那事変を拡大長期化させ、三国同盟を締結し、汪兆銘の南京政府を正式承認し、仏印進駐を強行したことに他ならない。

 従って日本が無謀な対米英開戦へと突き進んだ原因の分析とは、三次にわたる近衛内閣および近衛文麿の分析でなければならないのに、猪瀬直樹の「昭和16年夏の敗戦」のそれを行わない。

 内閣総力戦研究所所員であった昭和陸軍の良心こと堀場一雄中佐は、その前に参謀本部戦争指導班長としての数々の警告を発したが、その警告の一つ「今や国民政府相手にせずの自らの声明に束縛せられ軽率なる新中央政府樹立乃至態度決定は百年の悔を遺すものなり」(昭和14年7月5日事変解決秘策案)が現実化してしまったのに、猪瀬は「昭和16年夏の敗戦」に堀場を登場させながら、そのことに全く気付かない。つまり猪瀬は「昭和16年夏の敗戦」に我が国が無謀な戦争へ突入したプロセスを克明に描いてもいなければ、日本的組織の構造的欠陥を衝いてもいない。

 そもそも昭和16年3月に陸軍省戦備課が物的国力の分析から対南方武力行使に成算がないことを陸軍省部の主務者と首脳陣に説明し、彼らに南進を断念させたが( 大本営陸軍部戦争指導班 機密戦争日誌 昭和十六年三月二十七日の条)、独ソ戦勃発確実という情報が陸軍省部内に断固南進強行論を復活させたのである(機密戦争日誌昭和十六年六月六日の条)。

 猪瀬がこの史実に気付かないまま陸軍省戦備課の分析結果を後追いしただけの内閣総力戦研究所を過大評価しているのは洵に滑稽で、猪瀬直樹は大東亜戦争の真実を全く把握していないのである。

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 筆者は「昭和16年夏の敗戦」を読み猪瀬に呆れ果てたのだが、世の中には、この駄本を過大評価する著名人が少なからず居る。

昭和16年夏の敗戦(新版)の宣伝文

各界の著名人が絶賛!
日本的組織の構造的欠陥に迫る、全国民必読の書

〈広く読まれるべき本。講演で何度もすすめている〉
小泉純一郎(元内閣総理大臣)

〈データを無視し「空気」で決める。
この日本的悪習を撤廃しないかぎり、企業の「敗戦」も免れない〉
冨山和彦(経営共創基盤代表取締役CEO)

〈これは過去の歴史ではない。いまだ日本で起きていることだ〉
堀江貴文

〈私は、本書をまずまっ先に読むように若い学生諸君に伝えたい〉
橋爪大三郎(社会学者、大学院大学至善館教授)

〈結論ありきで大勢に流される日本の弱点が活写され、時代を超えて私たちに問いかける。あれからいったい何が変わったのか、と〉
三浦瑠麗(国際政治学者)

日米開戦前夜、四年後の敗戦は正確に予言されていた!
平均年齢33歳、「総力戦研究所」の若きエリート集団が出した結論は「日本必敗」。それでもなお開戦へと突き進んだのはなぜか。客観的な分析を無視し、無謀な戦争へと突入したプロセスを克明に描き、日本的組織の構造的欠陥を衝く。
〈巻末対談〉石破 茂×猪瀬直樹


 この昭和16年夏の敗戦は「類は友を呼ぶ」(気の合う者や似通った者同士は、自然に寄り集まって仲間を作るものであるということ)を実証した迷著である

 三次にわたる近衛内閣および近衛文麿の分析と追及を行わない戦史書や歴史教科書など無意味で無駄であること有権者に伝えるために、ブロガーへ執筆意欲を与える一日一押人気ブログランキングをクリック願います。

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