2020年03月28日

朴春琴代議士の大政翼賛会批判-戦史修正のお知らせ

 大政翼賛会発足後の第七十六回帝国議会では、岩田宙造議員のみならず朝鮮人の朴春琴代議士までも、翼賛会の正体を見抜き、軍部の欠点と我が国の敗因を指摘していた。如何なる学者といえども絶対に否定できないこの史実は、所長を大いに感激させたので、所長は国民のための大東亜戦争史25~37近衛新体制 「36、延命」を次のように加筆修正しました(強調部分が加筆修正箇所)。

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 さらに川崎代議士は、大政翼賛会が日本一贅沢な建物である東京会館に陣取り、政府予算に三千七百万円もの経費を要求しながら、国民に向かって盛んに「贅沢は敵だ」(2)と叫んでいる矛盾に疑問を呈した後、

 「大体に於て其の大政翼賛会の機構を細かに見て参りますとドイツのナチスの機構に倣った所もあり又共産ロシヤの機構に倣った所もあり、其の混血児的出現であるかのような感じがされるのであります、そう云う機構の上に打立てられて居るかの如き感を持つことは、政府の外に政府があって、そうして其の政府の外にある政府に指令権を持つかの如き機構になって居りますことは全体の条文なり、主張なりを御覧になったならば明らかに分かるのである。或は之に対して決してそうではないのだ、強制力を持たして居るのではないと御説明にはなって居りますが、先程指摘致しましたように国策の樹立遂行に協力すると云うことは、一種の政治的の力を以て政府に迫り、立法府に迫らんとする所の意味が其処に現れて居る。

 それが即ち政治力でありまして、吾々の如何にしても承服し難い点であるのであります、機構既に然り、其の内容に盛られたものは如何であるかと申せば、大政翼賛会に対して批評を加えてならない、批評を加えれば厳罰に附すると云うようなことを言って、恰も治外法権、幕府的存在を明かに致した、此の幕府的存在を明かに致したるが為に、それが温床となって、過激なる思想の養成所となりし感あることは免れない。

 私は大政翼賛会の中にありまする人の中には尊敬すべき紳士あることは認める、併しながら中には何人が認めても相当に危険なる思想の所有者なりと認めらるる人もなきにあらずと言わなければならぬ。是は改組をなさる機会には此の点に付て十分な御考慮になって思想上の宣伝を企つるが如き、赤き思想の宣伝を企つる如き者の翼賛会内より根絶することを政府に於て期せられたいのであります」

と述べ、翼賛会の左翼全体主義的な方向性を激しく批判して議員から拍手を浴びた(1)。そして貴族院では岩田宙造議員(庄屋の子で、弁護士となり、宮内省、日本銀行、日本郵船、東京海上火災、三菱銀行、日本勧業銀行各顧問を歴任した後、一九三一年に貴族院議員に勅任)は次のように指摘した。

 「実質上国家に大変革を与えようという大運動が、何等法律に根拠することなく、単純な民間の事実行為として行われんとすることは、どうしても私どもの常識からいって許されないことと考える。況や、明治天皇に依って行われ、現在行われている日本の憲法政治の根本は、決してかくの如き行為を容認するものではないと確信する。
 統治を行う所謂政治を行う機関もその行使の方法も、すべて憲法の規定によってのみ行うことが憲法政治の根本原則であると信ずる。憲法の認めない統治の機関や政治の運営は絶対に憲法の容認せざるところである。憲法第四条に『天皇は国の元首にして統治権を総攬し此の憲法の条規に依り之を行う』と明示されているのは即ちこの意味に外ならないと考える
。大政翼賛会は、何等法令に基づくところがない。しかも、国民の組織を根底から覆してこれを新にするような仕事を目標として起こった大組織が、憲法や法令に全然無関係のものであるとして許されるものであるということは、どうしても私どもの了解できないところである。」

 さらに岩田議員は、大政翼賛会の不明瞭な目的とその機構から生じる強大な政治力の弊害について次のように近衛首相を問い質した。

 「大政翼賛会の使命即ち其の目的は要するに上意下達下意上達との御説明であるが、翼賛会の機構を見ると政策局と企画局があり、これは決して単純な伝達機関ではなく、立派に政策を研究し計画を設計し政府の政策研究に協力することになって居る。翼賛会が自ら政策を樹立してそれが政府で採用された暁、国民をして其の政策を実行せしむる必要がある場合には国民に向い宣伝説得して之を実行せしむることも矢張り大政翼賛会の任務である。
 のみならず万民をして此の政策を実行実践せしむるが為には、例えば衆議院議員の総選挙の際、其の政府の政策に賛成の候補者と反対の候補者がある場合には、大政翼賛会の使命として、当然賛成の候補者を援助して当選に努力し、反対の候補者には反対して当選せしめざるようにしなければならぬ使命を帯びて居るものと考える。

 大政翼賛会に強大なる政治力が与えられた場合には、どういう結果を生じるか、政府に向っては非常に強い一つの勢力、必ずしも常に自分の味方とは限らない勢力がそこに出現することになる。而して其の政治力の強弱は、此の翼賛会の現実の組織、人的組織、其の他の構成上の内容如何に依って決まる問題であり、理論上の問題ではないと信ずる。
 初めには此の翼賛会の中にそういう一種の推進勢力になる或る力を此の中に繰り入れようという計画もあったようである。世間ではゲー・ペー・ウーが出来るのではないかと噂して居った時代もある。これは法的の問題であれば法律で何等か出来るけれども、只今のようにこれは何等法律に根拠しないのであるから、法律上の認め得べきものか認め得べからざるものかに論なく、事実そういう力が此の中に入って来るならば、これは恐るべきことになるのではないかと私は考える。
 
  幸い現総理大臣の如き忠誠、公正なる総理大臣が此の総裁を兼ねている時には心配ないが、一朝誤って此の総裁が総理大臣になって、これが非常な力を持って居る者を後に率いて国政を支配して行かれることになると、これこそ幕府的勢力が忽ちにして発生するのではないかと私は考える。 
 そういう見地から致しても、議会を壊すのではないのだから、議会の外にあるのだからと云って、勝手にどんな組織の翼賛機関でも作ることが自由であると云うことを憲法が許していると云うことは、私はどうしても考えることが出来ない。
 大政翼賛会の現在の組織ならびに機構に於いてその使命は私が只今述べたような使命を有しているものと解釈することは如何であるか。」


 これに対して近衛文麿首相は、

 「私はどこまでも政府が主であって翼賛会は従である。政策を樹てる者はすなわち政府であり、翼賛会はこれに協力してゆく従的なものであると考える。実は翼賛会の成立当時、ここに一つの強力なる政治力を結合してこれが一つの政策を樹て、これが政府を指導して引張ってゆくといったような、ドイツやイタリーに見るが如き考えをしている人もあったようである。しかし私ははじめからその考え方に逆なのである。この点、最初の新体制準備委員会における声明においても、そういうことになれば一国一党となる。これは我が国体に照し、憲法政治の本当の正しい運用から申しても、ゆゆしいことであると特に申し述べている」

と答弁せざるを得ず(一九四一年二月六日貴族院予算委員会)、さらに岩田議員の「現在の機構組織で之に相当の資力が加われば総裁の意見に反して、やはり私が述べたような危険が多分にある。大政翼賛会の機構組織を改め、政策局とか企画局を廃止し、間違っても大きな働きは出来ないようなものにして置くべきではないか」という趣旨の追及質問に対して、近衛首相は「適当な組織の改革を行って其の目的使命に沿うよう努力すること」を約束したのであった(3)。

(1)衆議院予算委員会議録第四回昭和十六年一月二十五日。川崎克【欽定憲法の真髄と大政翼賛会】七九~八二頁。
 朝鮮人の朴春琴代議士も、同年二月十八日の衆議院に政府委員として出席した陸軍省軍務局長の武藤章少将に対して、「今の翼賛会の何やらの幹部と云うものが『ドイツ』あたりへ行って、吾々一億の民は紀元二千六百年を御迎えしたと云うことを全く心から御祝いして悦んで居るにも拘らず、是が一体どうかと云うと、日本の紀元は一九三二年だと言う、六百何十年と云うものはまるきり空だと言う、兎に角日本の国体を傷つけると云うか、或いは一億の人に恥辱を与えたと云うか、そう云うような者が今日彼処に沢山介在して居る、所がそれ等の者が一時転向したからと云って黙って居る、私はどうも軍部の人は正直で、相手は兎に角肚があってやって居ることである、旨いことをすると直ぐ騙されると云うことがあると思いますが、ああ云う者はしっかり取締らなければいけないと思う、どうしても今日は軍部の力でやらなければああ云う者を退治することは出来ない、又中には翼賛会に宣伝部と云うものがあって、私有財産を認めないとか言って居る、そんなことをしないで本当に赤字公債でも、消化関係は愛国心で持たせると云うが、愛国心で持たせる位なら本当に愛国心があるように政府がやらなければならぬ、今日の日本の重大時局に於て甲の言うこと、乙の言うこと、丙の言うことが皆違って居る、それで国民が迷うと云うようなことがあっては本当の愛国心は私は、生まれないと思う」と指摘した(衆議院昭和十六年度一般会計歳出の財源に充つる為公債発行に関する法律案外一件委員会議録第十六回昭和十六年二月十八日)。
(2)清水留三郎代議士は「翼賛会の標語に贅沢は敵だと言うのもソ連共産党から来たものでよく調べると尾崎氏だとの事だ」と述べた(【現代史資料ゾルゲ事件4】五三四頁、昭和十七年官情報八五九号「国際諜報団事件に対する意向」)。
(3)貴族院予算委員会議事速記録第五号昭和十六年二月六日。伊藤【近衛新体制】一九二、二一三頁。
 

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