2019年12月04日

Kの国の法則の恐ろしさを証明した大日本帝国の不運と敗因-戦史修正のお知らせ

 大阪朝日新聞 1931.8.21-1931.8.28 「米専売可否 行詰まれる『政策』 大阪商大学長 河田嗣郎」の中で、河田学長は、「いま我国の米穀が、その財貨としての性質上十分なる統制経済下に置かるべきものであるならば、これに関して専売制を布くことは、農業国営が不可能事であることから考えても、残された唯一の道である。それは、極めて明白なることといわなければならない。だから私は理論上においては米専売制の主張の正当なる理由を見出すに何等の困難を感ずるものでない」と結論付けて、史上空前のコメ大豊作と朝鮮米の内地流入による米価の下落と農民の困窮を解決する政策として、政友会によって提唱された米専売制に賛同したのだが、併せて以下のように専売制の危険性を指摘した。

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 そしてわが国における最近の実情は、米価がとかく普通生産費を割って、農家の経済を困難に陥らしめ、その所得を以てしては、農家の労働は実に僅少な報酬にしかありつき難く、その生活が洵にみぢめな生活たらざるを得ざるに至らしめ、この事情が、実に全国一般的な困難であるがため米穀政策は、これを救うことを以て先ず任務となさねばならないことになった

 米穀法ももとより、この一般的困難を救わんがために案出せられまた実行されているのだが、然しそれは現在における実情についてのことであって、米穀法といわず、すべて米穀対策は、その本質においては、決して独り農業保護政策たるべからず、むしろ社会一般のための社会政策的任務を多く加味されたものでなければならないことは、動かすべからざるところである。今回政友会の発表した米専売案も、その動機はやはり農業保護政策的なものであろうかとも思えるが、もしそれが飽まで農業保護政策たらんとするものであるならば、どうしても出直して貰わなくてはならない。

 専売はいうまでもなくでもなく国家の独占である。今独占力によって米穀に関する価格の決定と需給適合に関する一切のこととが、国家の手一つによって行われることとなる場合に、もしそれが農業保護一点張りで行われたならば、その価格はただに農家をしてその生産費を回収せしむる程度において定められるを以て満足しないで、段々に高くされ、農家の収益を大ならしめることに向うであろう。

 しかしそうなった曉には、一般消費者はどうなるのだ。到底その負担に堪え切れず、重税を賦課せられるのと同一様の結果になり、しかもその税は消費税たる性質を持っているから、下級所得者に対するほどその負担は重く、これがために被るその人々の困難は、実に絶大なるものがなくてはならない。米の如き生活上の必需品で、その消費量の大なるものに、そんな重い負担の荷わさるべきものでないことは、論ずるまでもなくして明かである


 されば米専売制は、米穀に関する今日の困難を救う道としては、唯一の有効なものであるに相違ないが、その実行は、まずその政策的任務において吟味さるるところがなくてはならない。そしてそれが農業保護政策を任務とするものならば、断然これを排斥すべし、ただそれが社会政策的是正の下に行わるる性質のものであるにおいてのみ、はじめて是認され得る次第である。従って問題は、米穀価格決定の方法如何ということに最も重大な意義が宿る。


 河田学長の見解は消費税の欠陥と惨酷を要領良く指摘している。翻って事あるごとに反安倍を掲げ貧困と格差を憂うふりをしながら安倍内閣の消費税率の引き上げに賛同した今日の朝日新聞社はすでに反日亡国主義の狂人集団である

 それはともかく昭和大恐慌の渦中で非社会主義政党の政友会や非マルクス主義者の河田嗣郎ですら米専売制に賛同していたのだから、困窮する農村出身者を抱えた当時の帝国陸軍の将校たちが自由主義的市場経済に強烈な不信感を抱いたのは無理からぬことであった。

 そして彼らは「国家的統制力小なる現経済機構は、富の偏在、国民大衆の貧困、失業、中小産業者農民等の凋落等を来し、国民生活の安定も庶幾し得ない憾がある」と説く「国防の本義と其強化の提唱」に心酔して知らず知らずのうちに革新(左翼)将校となり、ソ連=コミンテルンは尾崎秀実らゾルゲ機関等々を介して帝国陸軍の革新将校を調略し、我が国の政府軍部内に巨大な諜報謀略網を組織することに成功したのである。これが我が国の敗因であった。あの国のあの法則(Kの国の法則)は決して牽強付会ではないのである

 個人と同様に国家にも運不運があり、筆者が残念に思う支那事変勃発前の大日本帝国の三大不運は、1930年にコメが史上空前の大豊作になったこと、1935年に朝鮮半島放棄の必要性を訴えた陸軍省軍務局長の永田鉄山少将が皇道派の相沢三郎中佐に斬殺されたこと、1937年に林内閣が総辞職した後、元老の西園寺公望が次期総理大臣として革新貴族の近衛文麿を昭和天皇に奏薦してしまったことである。

 そこで所長は国民のための大東亜戦争史81~89近衛上奏文解説「85、戦争指導の変遷」を以下のように加筆修正しました(強調部分が加筆修正箇所

 一九二九年の世界大恐慌以来、対外輸出の減少と井上準之助蔵相の緊縮財政と史上空前のコメ大豊作(1)を原因とする深刻なデフレ(需要不足、供給過剰)不況に陥った我が国では、昭和六年(一九三一)十二月十三日、若槻内閣に代わって誕生した犬養内閣の高橋是清大蔵大臣が円レートを切り下げ輸出の振興を図ると共に、日銀引受による国債発行を財源として大幅な財政支出の増加に踏み切るなど、ケインズ理論を先取る模範的な総需要拡大政策を実施し、昭和大恐慌を克服して経済を回復軌道に乗せることに成功した。一九三三年には我が国の実質経済成長率は十%を記録し、日本国民がドイツ国民のように藁をも掴む思いで社会主義政党の独裁政権に期待する必要は無かった。 

 だが農産物価格指数と農業所得指数は、一九二六年の数値をそれぞれ百とすると、一九三一年には五十五と四十にまで暴落し、翌年から反転上昇に転じたものの、一九三六年においても八十と七十五にとどまっていた。内地米の年間生産量六千万石余りに対して年間一千万石近い朝鮮米の内地移入に因り深刻化したデフレ不況の直撃を受けた日本農業(2)は工業分野や都市部に比べて景気回復軌道に乗り遅れたため、多数の貧しい農村の出身者を兵として抱えた帝国陸軍の将校が、自由主義的市場経済に強烈な不信感を抱き
、資本主義は財産を少数者に集積させ貧困失業を必ず生み出す(絶対窮乏化の原理)が故に失業貧困を無くすためには資本主義を倒さねばならない、と説くマルクス・レーニン主義に傾倒して政治経済の実態を見失い

(1)神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫米(31-026)大阪毎日新聞 一九三〇年十月三日記事「官民ともに唖然たる大豊作 現実過剰米七百万石 対策樹立が急務」
(2)神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫米(32-097)大阪朝日新聞 一九三一年八月二十一日~二十八日記事「米専売可否行詰まれる『政策』大阪商大学長 河田嗣郎」

(3)堀場【支那事変戦争指導史】六九〇頁。
 石原莞爾によれば、「戦争指導」とは「戦争における国力の運営を指すものにして、戦争に方り、武力の行使即ち統帥と武力行使以外の事、即ち戦争における政治との両者を調和統一して、戦勝を獲得する」を言う。


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