2019年12月03日

「間の抜けた政策」朝鮮米の増産と内地移入が招いた昭和大恐慌

 我が国が朝鮮半島の朝鮮農民の生活向上のために朝鮮米の増産に努めた結果、日本内地の日本農民が著しく困窮してしまった。

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大阪毎日新聞 昭和5年(1930)10月3日 官民ともに唖然たる大豊作 現実過剰米七百万石 対策樹立が急務

 本年の第一回米収穫予想は六千六百八十六万七千五百余石というわが国開闢以来の大豊作を見るに至ったが、同日朝鮮で発表された同地の第一回米収穫予想もまた千九百二十九万六千四百余石という空前の大豊作であって、この米の大洪水によって新米穀年度の内地需給状況を推測するに(残存米の計算を除く、単位千石)、

供給

産額 六六、八六七
鮮米移入高 九、〇〇〇
湾米移入高 二、四〇〇
外米輸入高 一、〇〇〇
計 七九、二六七

となって理想持越米約五百万石を除いて既に七百十万石のいわゆる現実の過剰米に圧迫されることになった。この情勢は官民いずれも予想し得なかったところとて農林省のどときも全く唖然としている。目下政府の所有する米穀法による余裕金は僅かに七千余万円にすぎず、朝鮮米大豊作に早くも一円六七十銭の値下りを見た市場には如何なる影響をおよぼすやもはかられず米値下りに伴う農民の救済にも七千余万円では三百万石の買上げさえ至難で、全く焼石に水の観あり、政府は非常な決心をもって対策を練る必要あり米穀政策はいよいよ容易ならぬ大問題となった模様である。

需要

消費予想 七一、六六七
輸移出 五〇〇
計 七二、一六七
差引供給過剰高 七、一〇〇


大阪朝日新聞 1931.8.21-1931.8.28 米専売可否行詰まれる『政策』大阪商大学長 河田嗣郎

朝鮮米の脅威

 純政策的な見地からこれを考えてみるに、米の問題において最も困難な点はいうまでもなく米価である。そしてそれは固より需給関係に立脚するのだが、同時に生産費と密接な関係をもつ。所がこれ等の事情は、従来は主として内地にのみ関した問題であったのに、近ごろになっては、広く朝鮮、台湾に及び、特に朝鮮との関係において問題は非常な困難を加えるようになった。その困難が解決せられなかったら、結局米価問題の謎はとけないのである。

 人のよく知るが如く、朝鮮においては我国食糧問題の必要上からと、朝鮮農業発展の必要上とからして、産米増殖計画が行われ、うんと馬力が掛けられたために、品種の改良と生産数量の増加とは急テムポの成績を現わして、近年においては、年々八、九百万石から一千万石に近い移出能力を示し、その殆ど全部が内地に向って移出されるようになって来た。

 それは予定の計画が予定通り奏効したのであるが、皮肉にもその成功に驚いたのは政府当局である。そしてその成功に脅かされるようになったのは内地の生産者である。というのは内地の生産量六千万石余りに対して、一千万石近いものが移入されて、然もその生産費は、朝鮮ではまだ地価が安く、労賃が低く、所得税その他租税公課は少く、生産はやや粗放的である結果内地のそれに比較して、かなり低安であるところから、内地米はその競争に堪え得られない実情が明かになって来たからである

 従前のように朝鮮米の品質が内地米に比して遥に劣っていた時分には、そしてその移入数量が二、三百万石を出でない状態にあった時分には、朝鮮から米が移入されるということは、内地の供給不足を補う意味において歓迎すべきことであり、またその移入のために米価が圧迫されるほどの結果は生じ得なかった。蓋し朝鮮米はラングーン米、サイゴン米などと同様に、内地米とは異種の商品としてまたその移入は補充的の意味にしか過ぎなかったからである。従ってその実情を基礎として政策を考えるならば、国民食糧の不足を補い、国家的自給状態を造り出すがためには、朝鮮米の増殖計画を樹てるということは、洵にに策の得たるものであったに相違ない。

 然るに困ったことには、その後内地の生産も比年増加し、しかも作柄は大体豊作続きであるところへもって来て、朝鮮の米がとても品質がよくなり生産量も急速に殖えて、今では内地米に対して補充以上に競争的商品となり、異種の商品にあらずして同種商品として殆ど完全な代替性を有するに至った。

 『政策』が驚いたのも無理のないことで、『政策』というものは由来そんなに間の抜けたものでもある。ただ併しながら実際困るのは内地の米穀生産者であって、移入米の季節的圧倒によって内地米価が抑えられるのもならず、生産費関係から、到底競争のでき難い地位に置かれてしまった。この意味において朝鮮米の増殖は、今や内地米に対して最大脅威となってしまったのである。その状恰も前世紀の八、九十年代において欧洲諸国の小麦生産者に対して、アメリカその他の輸入小麦が、大々的脅威となり、いわゆる農業恐慌期を生み出したのにも似ている

案山子然たる米穀法

 朝鮮米は今や内地米に対しては恐るべき強敵である。さればとて我が国策として、朝鮮米の増殖計画を止めるわけには行かない。けだしその計画は、ただ独り国民食糧問題の必要上から行われるばかりでなく、朝鮮の農業を開発し、朝鮮農民の経済を向上せしめるためにも行われるものであるから。そして現今朝鮮でできる米の数量は、朝鮮における需要量を超過し、また朝鮮大多数の農民の生活程度からいえば、その食用は安価な満洲産の粟などを輸入することによって用を弁じ、高価な朝鮮米はこれを内地に向けて移出することを必要とする状況であるから、朝鮮米の内地移入はその生産量の大部分に及び、朝鮮農業にとっては、これがその収益の主要部分であり、大多数の朝鮮農家にとっては、これがその所得の本体である。従っていま朝鮮米の内地移入を禁止もしくは制限するが如きことは、朝鮮農業に対しては実に由々敷大事であって、朝鮮が我国の一部分である限り、それは到底行われ得べきものでない。

 米穀政策を内地本位の立場のみから考える人々は、今日のような実情においては、朝鮮産米増殖計画を中止すべし、少くともこれを緩和すべしとか、内地移入米量を限定すべしとか、内地移入税を賦課すべしとか主張するのである。そしてこれらの論者は現在のように内地農家の窮迫せる状態においては、かくの如き政策を行うのもまたまた止むを得ないところであって、この際朝鮮農家のことをまで考える余裕はない。内地農家の不利益を忍んで、否むしろその利益を犠牲にして、朝鮮農家のためを計るのは、実に宋襄の仁の甚だしきものであると考えている。

 一応尤な考え方ではあるが、さればとて国家に向ってかくの如き政策を行えと要求するのは、実際無理な注文である。国内各部分に対して一視同仁なるべき国策が、かくの如きことを行い得ざるはいうまでもない
。また朝鮮に対する現時の政治的考慮からしても、かくの如き政策が行われ得べきものでもない。


 戦前の日本農民を苦しめた1920年代の慢性デフレ不況および1929年から1931年末までの昭和大恐慌を引き起こした主な原因の一つは、我が国が実施した朝鮮米の増殖と内地移入だったのである。大阪商大学長の河田嗣郎は、それを「間の抜けた政策」と評した。

 残念なことに1965年の日韓国交正常化以降の我が国は戦前の「間の抜けた政策」を反省するどころか、韓国に良かれと思い、それを工業分野に引き継いでしまった。我が国の政府と産業界が育成した韓国の造船、自動車、家電、半導体等々、皆そうである。

 我が国の政府が神功皇后モードに固執する限り、「間の抜けた政策」を実施して日本国民を苦しめるので、今こそ日本国民は日本政府に北条時宗モードへの切り替えを要求し、日本国民自身もそれを覚悟すべきであろう(詳細は神功皇后モードから北条時宗モードへ)。

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