2019年08月13日

ガダルカナル攻防戦終了直後の「敵潜水艦に対する防禦強化に関する請願」

 デモクラシーは一般国民が国家権力に参加して自国を運営する政治制度である。デモクラシーには直接と間接があり、間接デモクラシーは議会制デモクラシーである。自国の運営のなかで最も重要なものは財政である。いかなる政策も「先立つもの」つまり予算がなければ成り立たないからである。

 国民を含む国家の独立と生存と繁栄のために最も有効な税金の使途を追求し、その是非と可否を議決することが国民の代表として国家権力に参加している衆議院代議士の重要な責務である。それは戦前も戦後も変わらない。

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 大日本帝國憲法下における天皇は、国の元首として統治権を総攬し憲法の条規によってこれを行使する立憲君主であり、天皇を輔弼する内閣国務各大臣の副署なくして、いかなる法律勅令詔勅をも制定することはできず、帝國議会の承認なくして、いかなる法律も制定できず、帝國議会の予算承認なくして、いかなる軍拡も戦争もできなかった。

 だから天皇は無答責の地位(神聖不可侵)にあり、国務各大臣が責任を負ったのである。だから戦時中の学徒動員を批判する者は、まず学徒動員を可能にする兵役法に副署した国務各大臣の責任を追及し、兵役法を可決した帝國議会とその衆議院代議士を当選させた有権者の責任を追及しなければならない。

 また陸軍参謀本部(海軍軍令部)は作戦用兵計画を立案し、これを広範多岐にわたる軍事行政(軍の編成、人事、予算、兵力量)を所管する陸軍省(海軍省)との協議にかけ、陸軍省(海軍省)は政府の歳出歳入を所管する大蔵省と予算折衝を行っていた。

 だから戦時中の作戦用兵の失敗を批判する者は、参謀総長、軍令部総長、内閣総理大臣、陸軍大臣、海軍大臣、大蔵大臣の責任を追及しなければならない。

 「内閣総理大臣は機務を奏宣し、旨を承けて大政の方向を指示し、各部統督せざる所なし。職掌既に広く、責任従て重からざるを得ず。
 大臣の副署は二様の効果を生ず。一に、法律勅令及び其の他国事に係る詔勅は大臣の副署に依て始めて実施の効力を得。大臣の副署なき者は従て詔命の効なく、外に付して宣下するも所司の官吏之を奉行することを得ざるなり。二に、大臣の副署は大臣担当の権と責任の義を表示する者なり。蓋し国務大臣は内外を貫流する王命の溝渠たり。而して副署に依て其の義を昭明にするなり。
 大臣政事の責任は独り法律を以て之を論ずべからず、又道義の関る所たらざるべからず。法律の限界は大臣を待つ為の単一なる範囲とするに足らざるなり。故に朝廷の失政は署名の大臣其の責を逃れざること固より論なきのみならず、議に預かるの大臣は署名せざるも亦其の過を負わざることを得ざるべし。」(大日本帝國憲法義解第五十五條解説)

 帝國議会は、立法承認権のほか、行政を監視する任務を果たすために、請願を受ける権、上奏建議を行う権、政府に質問し弁明を求める権、財政を監督する権を有していた。陸軍統制派の理論的支柱であった池田純久が1934年刊行の「軍事行政」で指摘した通り、財政すなわち軍事費を含む政府の歳出歳入を監督する帝國議会の権限は、予算審議を通じて間接的に軍部を監督する権限に他ならなかった。

 昭和の帝國海軍が対米英戦に必要な海上輸送路護衛戦力を欠いていたことは、日米開戦前から周知の事実であったのだから、帝國議会は予算審議を通じて、海軍予算を海上輸送路護衛艦隊の整備に充てるように、内閣総理大臣、大蔵大臣、海軍大臣に要求すべきであったし、軍令部に引きずられる海軍大臣がそれを拒むならば、議会は、予算を否決するか、議院上奏権を行使し、我が国の生命線である海上輸送路の護衛を軽視する海軍大臣の罷免を天皇に請願すべきであった。

 そのために帝國憲法は帝國議会に広範かつ強大な権限を付与したのであって、帝國憲法下の我が国にシビリアンコントロールは厳然として存在していたのである

 戦時中山形県鶴岡市に住んでいた渡部昇一(1930~2017)はミッドウェー海戦後から間もなく帝國海軍の敗北を知ったそうで、正確な戦況は日本本土に帰還した将兵の口から一般国民に漏れ伝わっていた。それで帝國海軍の無能に業を煮やしたのか、或る臣民が第81回帝國議会衆議院に以下の「敵潜水艦に対する防禦強化に関する請願」を呈出し、ガダルカナル攻防戦の終了直後の昭和18年2月17日、帝國議会衆議院が帝國憲法第五十條「両議院は臣民より呈出する請願書を受くることを得」に基き、この請願を紹介して海軍省に海上交通線の護衛強化を要請した。

〇長野委員長代理 是より海軍省所管の請願に移ります

日程第一、敵潜水艦に対する防禦強化に関する請願文書表第七号-紹介議員坂東幸太郎君

〇坂東委員 この趣旨は極く簡単であります、近時敵潜水艦の我が沿岸水域に出没してこれが為に被る我が船舶の損害が少なくありませぬ、それは政府当局の発表に依るも明らかであります、関係当局においては既に種々の対策を講ぜられて居りますけれども、さらにいっそう各種の手段を講じてこの防衛に万全を尽くされんことを切望する次第であります、政府の御所見を伺います。

〇扇説明員 敵潜水艦に対する対策と致しましては、海軍と致しましても、関係各部と緊密に協力致しまして、之に対する積極的な攻撃は固よりのこと、敵潜水艦の攻撃に対する防禦、そういうあらゆる方面に向かいまして最善を致して居るのであります、なお船団の護衛とか、海上における警戒、こういう方面に対しても極力努力してやっている実情であります、さらに今後ともこれ等のあらゆる対策を強化致しまして、関係各部と緊密に連絡して十分なる対策を講じて行きたい、こういう風に考えて居ります(以下省略)。


 或る臣民の請願から約9か月後!の昭和18年11月15日に至りようやく海軍は海上護衛総司令部を発足させたが、これがあまりに遅い措置であったことは言うまでもない。

 現在の日本国民が本当に大東亜戦争を反省したいのであれば、もうそろそろ軍部暴走史観というフィクションと決別し、政府軍部に対する、帝國議会とその衆議院代議士を選んだ当時の有権者の監督責任を問うべきであろう。

 そうしなければ、今日の有権者は軍事学を修得する必要性を理解できず、自衛隊装備と予備自衛官の貧弱、国防法体系の欠陥、民間防衛の不備が、それらを是正する権限と責務を有する国会と国会議員を選ぶ現在の有権者によって放置されたまま、我が国は不幸な有事を迎えて再び敗戦し、多数の自衛官と文民が死傷するであろう。

 <戦史修正のお知らせ>

 所長は国民のための大東亜戦争史「40、廬溝橋事件」を以下の様に修正しました(強調部分が修正箇所)。

「我が国の対ソ戦備拡充を目的とする重要産業五カ年計画が陸軍省整備局戦備課員の岡田菊三郎少佐の熱烈な協力を得て陸軍省に採択され」

 また「97、戦闘休止後の戦争」を以下の様に修正しました(強調部分が修正箇所)

「然も一九四八年七月二十六日には占領軍の検閲は事前検閲からより陰湿な事後検閲へ移行し」

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