2017年08月14日

東條英機と対照的な近衛文麿の戦争責任論-戦史修正のお知らせ

 所長は国民のための大東亜戦争正統抄史88~93近衛文麿の正体を以下のように修正しました。東條英機の戦争責任論と近衛文麿の戦争責任論の比較は、両者の違いを際立たせ、そこに両者の本性を浮かび上がらせるのである。

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 敗戦後、矢部貞治は近衛文麿の評伝の中で次の近衛の遺言を紹介し、服毒自殺した近衛のことを「正義と法になんの根拠もない戦勝者の思い上がった裁き(東京裁判)を、身をもって拒否することにより、かれらの前に立ちはだかって、天皇をお護りするというのが彼の凛然たる心事であったようである」と解説している(3)。

 「自分が罪に問われている主たる理由は、日支事変にあると思うが、日支事変で責任の帰着点を追及してゆけば、政治家としての近衛の責任は軽くなり、結局、統帥権の問題になる。したがって窮極は陛下の責任ということになるので、自分は法廷に立って所信を述べるわけにはゆかない。」

 昭和天皇の御意向を幾度となく無視し、陸軍参謀本部の猛反対を恫喝してトラウトマン和平工作を打ち切り支那事変を拡大長期化させた張本人は、近衛文麿自身である(第一次近衛声明および東亜新秩序声明の発表、汪兆銘工作の開始、汪兆銘政権の正式承認)。従って占領軍あるいは日本国民自身が支那事変で責任の帰着点を追及していけば、昭和天皇は責任を免れ、三度内閣総理大臣を務めた政治家としての近衛の責任が最重大になることは必至である

 なぜなら大日本帝国憲法は、天皇を、処罰と侮辱の対象にならない無答責(法的政治的無責任)の地位に置き(第三条、天皇の神聖不可侵)、天皇を輔弼する国務大臣に、君主に対する直接的責任と人民に対する間接的責任とを負わせている(第五十五条)。天皇が裁可し公布する法律勅令および国事に関する詔勅は、国務大臣の副署(同意のサインつまり承認)に依って始めて実施の効力を得、国務大臣の副署が大臣担当の権と責任の義を表示するからである(4)。

 「内閣総理大臣は機務を奏宣し、旨を承けて大政の方向を指示し、各部統督せざる所なし。職掌既に広く、責任従て重からざるを得ず。
 大臣の副署は二様の効果を生ず。一に、法律勅令及び其の他国事に係る詔勅は大臣の副署に依て始めて実施の効力を得。大臣の副署なき者は従て詔命の効なく、外に付して宣下するも所司の官吏之を奉行することを得ざるなり。二に、大臣の副署は大臣担当の権と責任の義を表示する者なり。蓋し国務大臣は内外を貫流する王命の溝渠たり。而して副署に依て其の義を昭明にするなり。
 大臣政事の責任は独り法律を以て之を論ずべからず、又道義の関る所たらざるべからず。法律の限界は大臣を待つ為の単一なる範囲とするに足らざるなり。故に朝廷の失政は署名の大臣其の責を逃れざること固より論なきのみならず、議に預かるの大臣は署名せざるも亦其の過を負わざることを得ざるべし。」(大日本帝国憲法義解第五十五条解説)

 東條英機は、東京裁判に提出した宣誓供述書(一九四七年十二月十九日署名捺印)の中で、「昭和十六年十二月一日の開戦決定の責任は内閣と統帥部にあり、絶対的に陛下の御責任ではありません」と断言し、また「敗戦の責任については当時の総理大臣たりし私の責任であります。この意味における責任は私はこれを受諾するのみならず真心より進んでこれを負荷せんことを希望するものであります」と表明した(5)。東條は元内閣総理大臣として裁判に臨むにあたり帝国憲法の発布勅語「朕が現在及将来の臣民は此の憲法に対し永遠に従順の義務を負うべし」及び第三条及び第五十五条を遵守したのに、翻って近衛文麿は帝国憲法に背反し昭和天皇に責任を転嫁したのである。

 予算執行の手続きにおいて天皇の統帥大権は予算編成権を持つ内閣から独立できず、近衛内閣が支那事変を積極的に拡大するために必要な巨額の戦時予算を編成、閣議決定し(内閣官制第五条左ノ各件ハ閣議ヲ経ヘシ 一法律案及予算決算案)これを帝国議会に提出したにも拘わらず、近衛は「日支事変で責任の帰着点を追及してゆけば、政治家としての近衛の責任は軽くなり、結局、統帥権の問題になる。したがって窮極は陛下の責任ということになる」などと真赤な虚言を弄したのである。そしてもし近衛の言葉通り、昭和天皇に統帥権を行使し支那事変を拡大長期化させた責任があるならば、近衛が自殺し出廷を拒否しても、天皇を護ることはできない。それにも拘わらず矢部は「かれらの前に立ちはだかって、天皇をお護りするというのが彼の凛然たる心事であったようである」などと詭弁を弄したのである。
 虚言、詭弁、そして責任転嫁。これがマルクスに憑依された近衛文麿とその側近の政治信条だったからである。

(3)矢部【近衛文麿下】六〇四頁。
(4)伊藤【憲法義解】第五十五条解説。
(5)東條由布子編【東條英機宣誓供述書】一六六、二三八頁。


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posted by 森羅万象の歴史家 at 21:00| Comment(0) | 過去を旅する歴史コラム | 更新情報をチェックする
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