2016年03月09日

大政翼賛会と対決した第七十六回帝国議会-戦史修正のお知らせ

 宮沢俊義と芦部信喜の虚偽憲法学を鵜呑みにしたまま老人となった東大法学部卒業の政治家、官僚、学者、弁護士、知識人、マスコミ関係者の中には、敗戦前の我が日本国は民主主義を知らなかったとか、立憲議会制デモクラシー国でなかったと公言して憚らない者がいます。

 また大政翼賛会の成立が日本の議会制デモクラシーを終わらせたと思い込んでいる者や、我が国の戦時体制を国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)の一党独裁と同じ「ファシズム」の範疇に入れてしまう者が後を絶ちません。

 そこで筆者は国民のための大東亜戦争正統抄史25~37近衛新体制の「36、延命」を以下のように修正しました。

 さらに翌十六年一月二十一日から再開された第七十六回帝国議会では、尾崎咢堂や鳩山一郎をはじめ、政党を喪失した各議員が大政翼賛会に激しい非難を浴びせた。
 一月二十五日の衆議院予算委員会にて鳩山派の川崎克代議士は、伊藤博文の憲法義解と明治二十六年二月十日に明治天皇が在廷の臣僚と議員に賜うた勅語を援用し、近衛首相に大政翼賛会の法律上の根拠を問い質した(1)。

川崎「私はそれは総理から承りたいのでありますが、総理から御答弁を願う前に其の意義をはっきり申し上げます、しばしば申上げますように、大政翼賛と云うことは理義明確でありまして、立憲国においては大政を翼賛する機関は制限せられている。臣民の翼賛に俟つと仰ったが、臣民の翼賛に俟つ為には帝国議会がある。帝国議会は、即ち衆議院にありては、千五百万人に近い所の有権者に参政の権を与え、この参政の権を行使せしめて、其の代表者が議会に集まって、即ち臣民の代表として翼賛し奉る。貴族院は特殊の階級を代表して翼賛し奉る。この両院の組織に依ってあらゆる階級層の代表機関が憲法的に、立憲的に、整然として備わって、責任の所在は明確である

 私が先程責任の所在を総理に質したのは是にあった。大臣輔弼の責任と云うものを果すならば、上意下達は完全に行われる、上意下達が完全に行われないならば、輔弼の責任を尽くしたとは申されませぬ。他の機関の力を藉るの必要は断じてない。私は立憲国において他の機関を要すると云うことは何処にあるかと云うことを法律上の根拠を承ったが、法律上の根拠は法制局長官は示していない、法律上の根拠はありませぬ、只今の答弁は法律上の根拠ではありませぬ。

 臣民の代表と仰るならば、臣民の代表は帝国議会がある、合理的なる帝国議会がある。もし其の議会が間違っているならば、解散して新しく国民の意思に問うて代表を出して宜しい。参政権の行使は全く政治に翼賛し奉る行為それ自体なのである。法律的にはそれ以外には途はありませぬ。憲法義解の著者は明かに其の軌道を外してはいかぬと云うことを只今も申し上げたように書いてある。軌道の外に出てはいかぬ、それでは責任の紛淆を免れぬ、責任を糺すと云うことは其の機関において責任を糺す以外にはない。所謂道義的観念において翼賛と云うことは、是は万民翼賛で宜しい。大政翼賛と云うことになって問題が起る。

 而して又総理の説明せられた上意下達、下意上達は如何なることを指すのかと云うことを私が御尋ねしたらば、内閣の立てた政策を国民に徹底せしむるにあると仰せられるが、国民に徹底せしむるならば、議会を通じ、又内閣諸官制を通じて、只今申上げた新体制の組織の上において十分徹底し得るのである。命令権が行き届けば必ずやれる。又国民の不平或いは希望があるならば、調査して国政の上に参考に供しい、これは議会が当然行い得る権限であります。議会には上奏権もある、請願権もある、建議権もある。昔のように之を上奏する場合が起れば差し止められると云うようなものでなしに、真に民の心を御採りになる機関と云うものは完全に備わって居る。又帝国議会の職責の上においてせなければならぬ、建議をしなければならぬ、上奏をしなければならぬ、請願をしなければならぬのは、帝国議会の職務権限の上において行われなければならぬ。なぜ其の当然の機関を御通しにならないか。当然の機関だけで十分行い得る。他の機関があることに依って紛淆を免れない、権限の争いを免れない、命令が二途に出る、政府の外に政府を作ったことになると云うことは争い得ないことでありまして、憲法の精神に反することは明らかである

 余り問い詰めるようでありますが、是は正しくしなければならぬ問題でありますから私は申すのでありますが、私の考えが間違って居るならば、お前の考えは精神において間違って居ると云うことをはっきり正して戴きたい、どうぞ其の点を御答弁願います。」

近衛「大政翼賛会、或いは大政翼賛運動は、憲法上において認められたる上意下達、下意上達の機関である所のこの帝国議会の権限に対して、少しも之を侵すものではないのでありまして、上意下達、下意上達と云うことの帝国議会の行いまする作用を補充すると云う意味において行われるのであります。」

川崎「それは益々不可解なことを仰せになります。今の補充をなさると云うことは、是は補充をすると云う法律上の根拠はありませぬ。これは何処にも其の規定がない。憲法義解の一番劈頭を御覧になれば斯う云うことが書いてある。即ち『大臣の輔弼と議会の翼賛とに依り機関各々其の所を得て而して臣民の権利及義務を明にし益々其の幸福を進むることを期せむとす此れ皆祖宗の偉業に依り其の源を疏して其の流を通ずる者なり』とあって、此の機関以外には無いことをはっきり明確にせられて居る。それから私は前に申上げたように、此の明治二十六年の詔書の中にもはっきりと此のことが仰せられて居ります。機関の紛淆と云うことを飽くまでも御避けになって居る。此の精神と云うものは『万機公論に決すべし』と云う五箇条の御誓文を御出しになって後、憲法政治を実施せられるまで二十三箇年の間、朝野のあらゆる意見を通じてここに到られて居る。

 木戸孝允、大久保利通、或は元田永孚と云うような人々の憲法に対する建白書を読んで見ますと真に日本の此の君主立憲政体の有難きことを掲げると同時に、其の責任の紛淆を避けなければならぬ、立憲政治の上には斯う云う風にして行かなければならぬと云うことも述べてある、憲法を制定するまでに於ける所の道行と云うものは、二十三箇年の長い間、朝野の歴史ある研鑽の結果から生れて、そうして畏多いことでありまするけれども、明治大帝の大御心に依ってこの憲法政治が確立せられたのであります。

 世間動ともすると不祥の言をなし、憲法は改正すれば宜しいではないかと云うことを言う者がある、不都合至極の言議である。『ナチス』は一九三三年に『ヒトラー』が憲法改正を行うた、斯様な『ドイツ』あたりで憲法の改正を行うたようなことが日本で行われるものではありませぬ。申すまでもなく憲法の上諭書にも『将来若此の憲法の或る條章を改定するの必要なる時宜を見るに至らば朕及朕が継統の子孫は発議の権を執り』と仰せられて居る。陛下以外には此の憲法改正の御発議は出来ない。日本の憲法は欽定憲法として、明かに陛下の御言葉に依るにあらざれば改正の出来ないことだけは明確である。それを何すれぞ憲法改正、何事を言うか、そう云う不逞の輩があって、憲法は時に改正をすることが出来るかのような間違った考えを持って居る者がある。

 なるほど日本の憲法も実施して居る間においては危険な時期もあった。伊藤内閣の時分に遼東還附、屈辱講和をしたと云うので囂然として物議が起って、議会は之に対して非常な決議をしたと云うことに対して、在廷の閣僚は憲法の中止を御願い申上げた所が、是は御聴入れがなかった、是は宮中に二十年も居りました渡邊幾治朗君の著書の中にも此のことが書かれてある、如何に明治天皇が憲法を重んぜられ給うたかと云うことは、畏多いことである。この憲法の條章以外に出て機関を作ると云うことであれば、責任の紛淆は免れませぬ。

 私は総理大臣に最初官界の気風を一新する上において、先ず第一に責任政治を行われるかと云うことを御尋ねした趣旨は茲に在った、責任政治を行うのであれば、即ち上意下達、政策の徹底、政府の政務の徹底、国務の徹底は内閣において十分行われる、そうして議会において民意を暢達することにあって、議会と政府と一体になって、憲政を運用することが十分になし得る、何ぞ外の機関を借らなければならぬのか、外の機関を借ることになれば憲法の大義を紊ると云うことは、どうしても是は避けられませぬ(以下略)。」

 さらに川崎代議士は、大政翼賛会が日本一贅沢な建物である東京会館に陣取り、政府予算に三千七百万円もの経費を要求しながら、国民に向かって盛んに「贅沢は敵だ」(2)と叫んでいる矛盾に疑問を呈した後、

「大体に於て其の大政翼賛会の機構を細かに見て参りますとドイツのナチスの機構に倣った所もあり又共産ロシヤの機構に倣った所もあり、其の混血児的出現であるかのような感じがされるのであります、そう云う機構の上に打立てられて居るかの如き感を持つことは、政府の外に政府があって、そうして其の政府の外にある政府に指令権を持つかの如き機構になって居りますことは全体の条文なり、主張なりを御覧になったならば明らかに分かるのである。或は之に対して決してそうではないのだ、強制力を持たして居るのではないと御説明にはなって居りますが、先程指摘致しましたように国策の樹立遂行に協力すると云うことは、一種の政治的の力を以て政府に迫り、立法府に迫らんとする所の意味が其処に現れて居る。

 それが即ち政治力でありまして、吾々の如何にしても承服し難い点であるのであります、機構既に然り、其の内容に盛られたものは如何であるかと申せば、大政翼賛会に対して批評を加えてならない、批評を加えれば厳罰に附すると云うようなことを言って、恰も治外法権、幕府的存在を明かに致した、此の幕府的存在を明かに致したるが為に、それが温床となって、過激なる思想の養成所となりし感あることは免れない。

 私は大政翼賛会の中にありまする人の中には尊敬すべき紳士あることは認める、併しながら中には何人が認めても相当に危険なる思想の所有者なりと認めらるる人もなきにあらずと言わなければならぬ。是は改組をなさる機会には此の点に付て十分な御考慮になって思想上の宣伝を企つるが如き、赤き思想の宣伝を企つる如き者の翼賛会内より根絶することを政府に於て期せられたいのであります」

と翼賛会の赤い全体主義的な方向性を激しく批判して議員から拍手を浴びた(1)。そして貴族院では岩田宙造議員(弁護士として、宮内省、日本銀行、日本郵船、東京海上火災、三菱銀行、日本勧業銀行各顧問を歴任後、一九三一年に貴族院議員に勅任)は次のように質問した。

「実質上国家に大変革を与えようという大運動が、何等法律に根拠することなく、単純な民間の事実行為として行われんとすることは、どうしても私どもの常識からいって許されないことと考える。況や、現在行われている憲法政治の根本は、決してかくの如き行為を容認するものではないと確信する。

 統治を行う機関いわゆる政治を行う権限もその行使の方法も、すべて憲法の規定によってのみ行うことが憲法政治の根本原則であると信ずる。憲法の認めない統治の機関や政治の運営は絶対に憲法の容認せざるところである。憲法第四条に『天皇は国の元首にして統治権を総攬し此の憲法の条規に依り之を行う』と明示されているのは即ちこの意味に外ならないと考える。大政翼賛会は、何等法令に基づくところがない。しかも、国民の組織を根底から覆してこれを新にするような仕事を目標として起こった大組織が、憲法や法令に全然無関係のものであるとして許されるものであるということは、どうしても私どもの了解できないところである。」

 これに対して近衛文麿首相は、

「私はどこまでも政府が主であって翼賛会は従である。政策を樹てる者はすなわち政府であり、翼賛会はこれに協力してゆく従的なものであると考える。実は翼賛会成立当時、一つの強力なる政治力を結合してこれが一つの政策を樹て、これが政府を指導して引張ってゆくといったような、ドイツやイタリーに見るが如き考えをしている人もあったようである。しかし私ははじめからその考え方に逆なのである。この点、最初の新体制準備委員会における声明においても、そういうことになれば一国一党となる。これは我が国体に照し、憲法政治の本当の正しい運用から申しても、ゆゆしいことであると特に申し述べている」

と答弁せざるを得ず(一九四一年二月六日貴族院予算委員会)、さらに岩田議員の「現在の機構組織で之に相当の資力が加われば総裁の意見に反して一国一党になる危険があるのではないか」との追及質問に対して、近衛首相は「適当な組織の改革を行って其の目的使命に沿うよう努力すること」を約束したのであった(3)。

(1)第一類第一号予算委員会議録第四回昭和十六年一月二十五日。川崎克【欽定憲法の真髄と大政翼賛会】七十九~八十二頁。
(2)清水留三郎代議士は「翼賛会の標語に贅沢は敵だと言うのもソ連共産党から来たものでよく調べると尾崎氏だとの事だ」と述べた(【現代史資料ゾルゲ事件4】五三四頁、昭和十七年官情報八五九号「国際諜報団事件に対する意向」)。
(3)貴族院予算委員会議事速記録第五号昭和十六年二月六日。伊藤【近衛新体制】一九二、二一三頁。  


 これで「36、延命」の典拠はすべて第一次史料となりました。

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