2011年01月17日

小林よしのりが隠蔽する神皇正統記の論理

 北畠親房には、皇位の傍流(支系)継承を否定できない理由があった。神皇正統記を読む者はそれを簡単に理解できる。

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<神皇正統記中・天皇の徳と系譜>

 およそ歴代天皇の事蹟を述べた書物は昔からそれぞれの家に伝わったものがたくさんある。だからここに書いたところもとりわけ珍しいことではない。ただ神代以来、皇位が正しく継承されてきたことの一端を述べたいためである。

 わが国は神国であるから、天照大神の御はからいによって続いてきた。もっともそのなかで、天皇が誤りを犯したために治世がながくない場合もあった。また最後には正路にかえりはしたが、一時は正統が沈淪してふるわないこともあった。

 これはみな天皇自身の不徳のいたすところであって、神仏の加護がむなしかったからではない。仏は衆生を一人残らず彼岸に導き救済しようとし、神も万民に正直の徳を得させようとするけれども、衆生のもって生まれた因果応報がさまざまで、万民の享けて生まれたものがそれぞれ違うから、決して一様にはゆかない。

 前世で十善を積み、その報いで今生で天子となったいっても、代々の天皇の業績・善悪はまたまちまちである。だから本を本として正にかえり、元を元として邪を捨ててこそ祖神にもかなうものである。

 神武天皇から景行天皇まで十二代は、子孫がそのまま位を継いだのであって何一つまぎらわしいことはない。日本武尊が皇位につかないうちに亡くなったので、弟の成務天皇に皇位が移ったが、次には日本武尊の子の仲哀天皇に伝えられた。仲哀天皇・応神天皇ののちには仁徳天皇に伝えられた。

 武烈天皇は悪王であったため継嗣が絶えてしまったので、応神天皇の五世の孫の継体天皇がえらばれて即位した。これはたいそう珍しい例である。けれど皇位継承の候補者が二人あるときは、いずれが正統でいずれが傍流かということも問題になるが、継体天皇の場合は、他にないため、群臣が皇胤を探し出したのであり、御本人も賢者で天意を享けており、また即位を願う人民の望みにもかなっていたのであるから、正統か傍流かなどということは問題にならない。

 その後、あいついで天智・天武の兄弟が立ち、大友皇子の乱(壬申の乱)の結果、天武天皇の子孫がながく皇位を受け継いだ。しかし、称徳女帝のとき継嗣者もなく、また当時、政治も乱れ(押勝・道鏡の事件など)、皇太子をきめることがないままにこの流れが絶えたので、光仁天皇が称徳天皇からは遠い続柄であったが、えらばれて即位した

 これは継体天皇の場合とよく似ているが、天智天皇はもともと正統であり、その第一皇子の大友皇子はたまたま誤りを犯して位につかなかったが、その子の施基皇子には何の罪もない。だから、その子にあたる光仁天皇が位についたのは正理にかえったのだといえよう

 今の光孝天皇も昭宣公(基経)がえらび出して位につけたのだが、これは陽成天皇が仁明天皇の皇太子の文徳天皇の嫡流だったのに、たいへんな悪王であり、他方、光孝天皇は仁明天皇の第二皇子だが、他の親王たちに比べ特に賢才であったから、これも天照大神の神意にかなっているといえるだろう

 このように傍流の方が皇位を継いだのは、これまで三代ある。これは群臣が探し出して皇位につけたのではあるが、もともと人臣の勝手な考えによったのではなく、神慮にもとづくものである。この点、すでに前に書いてきた道理をよくよくわきまえるべきことだろう。

 光孝天皇より昔はすべて上古というべきで、のちの時代とは政治のやり方や世の中の姿がちがう。だから、何ごとについても先例を考えるときは、光孝天皇の仁和年間以降のことを例とする。

 しかし上古の時代でさえもこうした道理によって皇位が受け継がれてきているのである。まして末の世ともなれば、正理にかなった譲りでなくてはその位を保つことはとうていできないと心得るべきである。

 この天皇の御代から、摂政・関白となる家筋は、藤原氏のうちでも基経の流れにだけ固定して、他の流れがいかないようになった。ここにおいて、他の流れには行かないようになった。

 ここにおいて上天皇は光孝天皇の子孫が天照大神の正統ときまり、下摂政の地位は昭宣(基経)の家筋に固定し、天児屋根命(藤原氏の祖)が天照大神を補佐するという神代の誓いのとおり、これより今に至るまで天皇は三十九代、摂関は四十余人、連綿として四百七十余年におよんでいる(日本の名著9慈円・北畠親房402~404ページ)。


 藤原基経が陽成天皇(第57代)が廃し、基経に選ばれた傍流の時康親王が皇位を継承して光孝天皇(第58代)となった後、光孝天皇とその嫡流の子孫が皇統の本流-天照大神の正統(皇位継承者)-となり、北畠親房の主君である後村上天皇(第97代)に至った。これが親房のいう「時として一種姓のなかで傍流に伝えられることがあっても、またおのずから本流にもどって連綿とうち続いている」に該当する史実である。

 だから北畠親房の神皇正統記は三代の傍流(支系)継承を「神慮にもとづくもの」と全面肯定するのである

 旧宮家が皇族に復帰し、その中から昭和天皇の御子孫にあたる東久邇宮の男系男子が皇位を継承することになったら、持明院統(第89代後深草天皇の系統)嫡流から派生した伏見宮系統という皇統の傍流(支系)に属する東久邇宮ご出身の天皇とその嫡流の子孫が皇統の本流-天照大神の正統(皇位継承者)となり連綿と皇位を受け継いでいくことになり、それは「もともと人臣の勝手な考えによったのではなく、神慮にもとづくもの」である。これが神皇正統記の論理である

 明治の皇室典範義解第七條解説は皇統の歴史を「一系の下は尊卑相承け、而して宗系尽きて支系に及び、近系尽きて遠系尽きて及ぶ」と表現している。万世一系の皇統とは男系支系の統合なのである。

 小林よしのりは、後花園天皇(第102代)から昭和天皇(第124代)まで、持明院統(第89代後深草天皇の系統)崇光天皇(北朝第三代)五世孫以下の子孫にあたる伏見宮系男系男子に皇位継承権を与えた歴代天皇を論外の男系カルトに貶めるだけは飽き足らずに、神皇正統記すらも歪曲し、これを悪用して読者を騙すのである。

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朝敵の小林よしのりが「論外の男系カルト」に貶めた歴代天皇

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