2010年11月19日

日本円の反面教師ユーロは存続できるか?

 ユーロ加盟国が次から次へと危機に見舞われる主な原因は、ユーロという単一通貨とECBによる単一金融政策の下では、金利や為替相場の大幅な引き下げという自国本位の金融・為替政策運営が不可能なことである。

 ユーロは存続できるか?(原題は裁かれるユーロ-改革か分裂か?)は、1999年に発足した欧州単一通貨ユーロが現実に直面している問題点を抉(えぐ)りだしたものとしては、国内外を問わず初の労作ということである。

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ユーロは存続できるか?

ユーロは存続できるか?(ブレンダン・ブラウン著/シュプリンガー・フェアラーク/2004年10月初版発行)の目次

謝辞
日本語版への序文

欧州・ユーロ関連略語一覧
フランスの大統領・首相一覧表

第一章 ユーロでなくてもよかった?
・欧州の通貨制度に関するメニュー
・基軸通貨マルクの代わりを求めて
・通貨政治におけるフランスの劣等感
・ドイセンベルクの敗北主義がドイツの覇権を求めた
・欧州委員会による最適通貨理論の誤用
・不動産市場のバブルは通貨同盟を損なう
・通貨は小さいほうがいいこともある
・ECBの金融ニヒリスト

第二章 創設者たちと官僚たち
・通貨統合に対するミッテランの情熱はどの程度真摯だったのか?
・コールはどうして欠陥のある通貨同盟にドイツを誘導してしまったのか?
・ドロールはなぜ熱心だったのか?
・ジャック・シラクがフランスをEMUという約束された土地に向かう最終旅程に導く
・カール・オットー・ペールの失策
・ハンス・ティートマイヤー親仏家、コール派、外交官、執行人
・トリシェ-金融政策の面で情婦、アヤトラ、それともお人好し?
・官僚たちについての総括

第三章 分裂と崩壊
・通貨同盟崩壊のシナリオ
・オーストラリア・ハンガリー通貨同盟崩壊からの教訓
・ケベックがカナダから分離独立するという仮想例
・EMUからの時間をかけた段階的な離脱の例
・インフレあるいはデフレ脱却のための素早い戦略的な離脱
・地域的な不況に誘発された離脱
・ドイツが離脱をほのめかしている場合
・全面的な崩壊とECUの再生
・東欧諸国の強制的な離脱をめぐる危険性
・生存リスクと領域リスクがユーロの特徴

第四章 永続的な通貨同盟への旅路
・バールプランからパリサミットまで(一九六八-七二年)
・フランスの通貨不安でEMU行き列車は脱線(一九七四-八三年)
・旅の再開(一九八四-八八念)
・ドロールとペールが青写真を作成(一九八八-八九年)
・ドイツ再統一とストラスブールからローマまでの飛躍(一九八九-九〇年)
・ドイツ経済が嵐にみまわれているなかでEMU建築家は作業を続行(一九九一-九三年)
・EMSの嵐が過ぎ去った後の修復をティートマイヤーが監督(一九九三-九四年)
・旅路のペースを落とせという圧力が増大(一九九五年)
・シラクがドイツの条件を飲み、EMU列車は再出発(一九九五年秋-九六年半ば)
・イタリアとスペインがドアをたたく(一九九六年秋)
・最後の一周は会計士が地ならし(一九九七-一九九八年)

第五章 後退か前進か
・政治同盟を伴わない通貨同盟の生存リスク
・ユーロの下落とその後の反騰(一九九九-二〇〇三年)
・失望の経験(一九九九-二〇〇三年)
・ECBの政治的な疎外
・成長、安定協定をどうすべきか?
・最初に離脱するのは小国か?
・EMUの将来的な東方および北方への拡大
・改革の課題
・どの国の政府が改革を主導すべきか?
・投資家はユーロの生存リスクにどう対応すべきか?

第六章 ユーロの危機と円の将来(日本語版への追加章)
・訳者あとがき
・参考文献
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 本書の著者ブレンダン・ブラウンは三菱セキュリティーズインターナショナルのディレクター兼調査部長(在ロンドン、シカゴ大学経営学修士およびロンドン大学経済学博士)である。著者は、小国は通貨同盟への参加で失うものがもっとも少ないという一般的な見方を以下のように否定する。

 「現実には、小国は可能性として独自に大きな、ある重要な一面では大国よりも大きな金融権限を持っている。スイスの事例は小国の通貨でも国内購買力でみた安定性という点では、主要通貨に比肩し得るということを証明している。

 確かに、小国の企業は大国の場合よりも為替相場について大きな不確実性にさらされているかもしれない。したがって、小国通貨を担う中央銀行は大国通貨の中央銀行の場合よりも、短期的に為替市場の動きに大きく左右されながら政策運営を行うことになる。それに比べると国内インフレの目標は、小国の場合には金融政策の短期的な指針としては重要性が低いだろう。

 しかし、インフレないしデフレのリスクが高まった際には、小国の中銀は為替市場における自国通貨の上下変動を誘導することによって、決然とした行動をとることができる。為替相場はイギリスのような中規模国の場合でさえ、短中期的には最強の金融政策手段である。しかし、小国の場合、それは全能だ。ところが、たとえば、通貨同盟の中の小国ベルギーを考えると、何年間、いや何十年間にも及ぶデフレやインフレに引きずり込まれてしまうことがあり得よう。独立していれば、両方の状況に対して即効薬がもてる

 きわめて有効な為替相場という武器、それに金融の独立性に関連したその他の利益(通貨同盟内で大国による放漫財政の悪影響にさらされなくてすむ、金融部門を縮小させるおそれのある同盟共通の課税や銀行の守秘義務ルールを順守しなくてもすむことなど)を放棄する見返りとして、小国は一体何が獲得できるだろうか?

 ECBの理事職と、為替相場に関する不確実性の消滅に伴う貿易や国際投資の増大、といった経済的利益が通常の答えであろう。」


 しかし著者は、ECBの理事職に高値をつけるわけにはいかず、ユーロ加盟の経済的な利益については議論の余地があり、今後とも長年にわたって決定力に欠ける実証分析の対象であり続けることは疑いない、と断ずる。

 ユーロ加盟のメリットとされているものは、為替リスクの削減と取引コストの削減である。しかし著者は、EMU(欧州通貨同盟)に参加していないイギリスとスイス、そしてアメリカとの経済的な統合強化を背景に通貨同盟を創設せずに完全に独立した通貨を維持しているカナダを挙げ、「経験という実験室では為替リスクの削減が経済同盟の繁栄に必須であるという仮説は立証されておらず、取引コスト(貿易目的で外貨に頻繁に交換する際のコスト)の削減は情報技術革新によって達成されている」と述べ、「通貨統合派(通貨同盟推進派)の主張の経済的理論的な裏付けは、決して反論の余地がないほど精緻ではなく、時の流れとともに、通貨同盟の理論的根拠はますます薄弱になっていった」と指摘している。

 それでは、いったい何が経済的メリットに乏しいユーロを誕生させたのか?それは、質的にドイツの通貨と同等以上の通貨を発行する能力がフランスにはない、というフランスの劣等感と、西欧との一体化を放棄して危険な唯我独尊の連携や冒険主義に走ろうとする暗黒のドイツ・ナショナリズムの復活は好ましくない、というドイツの自虐観念であった。両国の自国不信が自国本位の金融・為替政策運営を不可能にするユーロ導入の推進力になってしまったというのである。

 著者が仮想するユーロの崩壊と分裂のシナリオのうち、「地域的な不況に誘発された離脱」は現実化しつつあり、もし財政危機に見舞われているユーロ加盟国がECBに国債を引き受けてもらう代わりに、EUから過激な緊縮財政の実施を強制されるならば、EU、ECB、ユーロに対する怨嗟の声はユーロ加盟国に満ち溢れ、ユーロ導入を推進したECBの金融ニヒリストたちが否定した自国本位の金融・為替政策-「国民通貨を再導入し、ユーロに対して切り下げ、金利を低水準にまで引き下げて急速な景気回復を図る」ためにユーロ離脱に踏み切る小国が出現し、ユーロ離脱を支持する大きな政治勢力に発展する第一陣を形成することになるだろう。

 我が日本国には、フランスに類似する財政的あるいは経済的な劣等感と、ドイツと同じくナショナリズムの復活を嫌悪する自虐観念の両方に蝕まれている政治家、知識人、評論家、学者、マスコミ人が多く存在する。彼らはユーロ圏の失敗を無視してアジア共通通貨の導入、東アジア共同体、特亜移民の受け入れ(多民族多文化強制社会)を執拗に画策するだろう。

 ユーロは存続できるか?を読み終えた人は、

1、ユーロの欺瞞に気付き、「国家の独立と自由(政策のフリーハンド)に勝る通貨同盟はないことを理解できる。

2、過去と現在の誤ちを直視しない左翼似非リベラル護憲派が宣伝する「亡国の東アジア共同体」論に惑わされなくなる。

3、支那事変およびこれを拡大長期化させた近衛内閣を非難した斎藤隆夫代議士の以下の演説(1940年2月2日第七十五回帝国議会)に満腔の共感を覚えることができる。


 「国家競争は道理の競争ではない、正邪曲直の競争でもない、徹頭徹尾力の競争である世にそうでないと言う者があるならばそれは偽りであります、偽善であります、吾々は偽善を排斥する、飽くまでも偽善を排斥して、以て国家競争の真髄を掴まねばならぬ、国家競争の真髄は何であるか、曰く生存競争である、優勝劣敗である、適者生存である、適者即ち強者の生存であります、強者が興って弱者が亡びる、過去数千年の歴史はそれである、未来永遠の歴史も亦それでなくてはならないのであります。

 此の歴史上の事実を基礎として、吾々が国家競争に向うに当りましては、徹頭徹尾自国本位であらねばならぬ、自国の力を養成し自国の力を強化する、是より外に国家の向うべき途はないのであります。」(齋藤隆夫かく戦えり


 つまり我が国の児童生徒学生が、1999年に発足した欧州単一通貨ユーロが現実に直面している問題点を抉(えぐ)りだすユーロは存続できるか?を読めば、自虐史観の危険性に気付き、我が国は自国本位の財政・金融・為替政策の運営を不可能にしてしまう通貨同盟や共同体に軽々しく参加してはならないと判断し、彼らの中からは斎藤隆夫代議士のごとく何よりも日本国の利益を優先する闘将政治家が生まれてくるだろう

<関連ページ>

ハイパーインフレの恐怖を煽る朝日新聞社の山田厚史の経済観に同調する日本人は危ない!

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posted by 森羅万象の歴史家 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 所長が選ぶ名著と迷著の紹介 | 更新情報をチェックする
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