2010年09月02日

日本に現れた汪兆銘の再来-中村粲

 一般人が入手し難い大東亜戦争第一次史料を網羅する終戦工作の記録上巻第十章幻想の対ソ工作資料73「今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領案」(昭和19・8・8省部主務者案)が近衛上奏文中の「軍部の一部はいかなる犠牲を払いてもソ連と手を握るべしとさえ論ずるものもあり、又延安との提携を考え居る者もありとの事に御座候」に相当する。

 マリアナ失陥以後の陸軍の対ソ・アプローチは〔資料73〕の対外政略指導要領案に示されている。

「概ね本秋頃を其の結実の目途とし『ソ』をして帝国と重慶(延安を含む)との終戦を、やむを得ざるも延安政権との停戦妥協を斡旋せしめ且つ独『ソ』間の国交恢復を勧奨す」

 具体的には、八月下旬頃に特使をソ連に派遣し、ソ連の対独妥協を勧奨するとともに、日本・重慶間の停戦をも仲介させるというのである。この交渉に際して日本がソ連に提供すべき条件は、(1)日独防共協定の廃棄、(2)南樺太の譲渡、(3)満州の非武装化または北半分の譲歩、(4)重慶地区はソ連の勢力圏とし、(支那における)日本占領域は日ソ勢力の「混淆地帯」とする、(5)戦中、戦後における日ソ間の特恵的貿易の促進、などである。

 当時としてはきわめて大胆な譲歩であり、陸軍の対ソ交渉に対する期待の大きさを示すとともに、代償を提供すればなおソ連を説得する余地は残されているという判断の存在を示している。秦彦三郎参謀次長の判断に従えば、「日本の弱化は将来のソ連対米英のバランス・オブ・パワー上ソ連の不利であろう。この点からソ連を我方に引き付ける外交が出来る筈」(中村正吾『永田町一番地』)なのであった(終戦工作の記録上巻311~312ページ))。


 「今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領案」(昭和19・8・8省部主務者案)の全文は、参謀本部所蔵敗戦の記録35~37ページにも記載されている。この敗戦の記録342~352ページには、「日中ソ提携を夢見、遂にはわが犠牲を覚悟してまでの戦争終末に導かんとする対ソ工作」の主唱者であった陸軍参謀本部戦争指導班の種村佐孝大佐起案による「今後の対ソ施策に対する意見」(昭和20・4・29日)が収録されているので、興味のある方は一読していただきたい。

 そして以上の戦争指導資料を念頭に置いて以下の大東亜戦争の総括を読んでいただきたい。この論文は、アマチュア歴史研究家の妄想ではなく、東京大学文学部を卒業した著名な大学教授のものである。

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正しかった日本の歩み

 大東亜戦争への第二の流れ。それはロシア革命以後の共産主義防遏(ぼうあつ-遏の意味は止める)の戦いであった。

 大正中期以降の歴史を思い返そう。シベリア出兵、満州事変は何れも、いかにして共産主義の危険から東亜と日本を守るかの問題意識と深く関わっていた。支那事変発生の背景にコミンテルンの謀略があったことも本書で指摘した。

 更に、日米交渉の最大争点が支那に於ける防共駐兵の問題であったことは、我が国の国策が最後まで防共と不可分のものであったことを物語っていよう

 惜しむらくは、米国に我が国の防共努力に対する理解の欠けていたことである。東亜に於ける共産主義の防波堤たらんとする我が日本の立場に対する正当な認識があったならば、日米関係と東亜に於ける全事態は、全く別の展開を遂げたのではあるまいか。

 所で昨今、東欧、バルト三国その他世界各地で、共産主義の思想と体制が人間の自由を抑圧するものとして、その権威を否認され、その罪過が民衆によって問われるという注目すべき現象が連鎖的に生起しつつある。

 ロシア革命以来、共産主義七十有余年の政治犯罪史の告発と断罪が始まったのだ。この澎湃たる反共気運を歴史の光の中に置いてみるならば、決定的に重大な問題が浮かび上がってくるのに気がつく。

 即ち、共産主義が邪悪な反人道的イデオロギーであり、政治体制であるならば、その共産主義と一貫して戦った日本は先見の明があり、基本的には人道の側に立っていたとの結論になるのではないか、ということだ。
 
 共産主義の否定が人間回復への道であり、歴史の正しい方向であるならば、防共への第一線を戦ってきた日本は、少なくとも歴史の正しい流れに沿って歩んでいたと結論できるのではないか。「軍国主義」日本は、人類救済の先導者であったことにならないか

 もしそうならば、当時は他国領土の侵略と見えた行動も、大局的には防共という大義のための一時的な方便であったということになろう。
 してみれば、共産主義を民主主義と同一視し、善なる体制と前提した上で日本の行動を断罪した東京裁判史観は、その前提が崩れた今日、完全に成立しなくなる。

 逆に共産主義の防波堤たらんとして戦った日本は、基本的には侵略戦争ではなく、正義と人類救済の戦争を遂行していたことになり、マクロ的には、正しい歴史の流れに従っていたことになる。防共戦としての性格をもつ大東亜戦争は、いまその正当性を事実を以て立証されつつあると云えよう

 共産主義社会の実現を最高善とし、そのための破壊工作や戦争を民族解放戦争と美化し、斯かる共産破壊活動から自らを守らんとする陣営を反動、帝国主義、侵略の道をゆく者として歴史を記述してきた左翼史家達は、いまや決定的な歴史評価の転換を、世界の人民大衆によって迫られていると云えよう。

 マルキスト及びその同調者達に、彼等の歴史観の誤りを率直に認め、訂正する良心と勇気があるかどうか、厳しく見守ってゆかねばなるまい(大東亜戦争への道658~659ページ/中村粲著/展転社/1990年初版発行)。


 小林よしのりの戦争論に大きな影響を与えた「大東亜戦争への道」の支那事変勃発以降の記述は、矢部貞治の近衛文麿や近衛文麿の平和への努力に依拠しており、それは近衛内閣擁護史観なのである。

 だから中村粲は近衛の東亜新秩序声明や汪兆銘工作を額面どおり受け取り、大東亜戦争を「防共戦としての性格をもつ」といい、「共産主義と一貫して戦った日本は先見の明があった」といい、「共産主義の防波堤たらんとして戦った日本は正義と人類救済の戦争を遂行していた」とまでいうのである。

 そして読者に大東亜戦争の真実に反するトンデモナイ防共戦争史観を信じ込ませるために、中村粲は、それに都合の悪い事実をすべて省いたのである。

 蒋介石がトラウトマン工作に応じてきたこと、第一次近衛声明を補足説明した近衛の抹殺声明、国民政府が共産党との関係清算を条件の一つとして我が国に和平を申し込んできた宇垣・孔祥煕工作、ソ連のスパイ尾崎秀実ら近衛の元に参集した共産主義者の謀略活動、尾崎が所属したゾルゲ機関の謀略構想、近衛内閣の軍事外交内政の真の目的、さらに近衛の正体まで余す処なく現代に伝える尾崎秀実著作集

 日本のソビエトを目指した彼ら共産主義者が推進した上からの国内革新-国家総動員法発動と近衛新体制運動、昭和18年以降近衛文麿が周囲の要人に漏らし始めた陸軍統制派による軍部内革新運動、それを裏付ける冒頭の陸軍参謀本部戦争指導班の第一次史料を網羅する終戦工作の記録

 これらすべてを中村粲の大東亜戦争への道は省略し隠蔽し無視したのである。そのことが却って尾崎秀実を美化する朝日新聞および反日左翼史家とマルキストを跳梁跋扈させ、結果として彼らに五臓六腑を蝕まれた我が国はアカに塗れて既に死臭を漂わせているのに、中村粲はそれを反省しないまま鬼籍に入ってしまった。中川八洋教授は汪兆銘を次のように評している。

 中国人からは「漢奸」とののしられ、結果としても日中戦争の長期化に役に立つ「白痴」(レーニン)となった汪兆銘とは、その本心が日中戦争の早期終結であったが故に、個人の「善意」が「有害」に転ずる国際政治の非情さを知らなさすぎた余りにも未熟な政治家であった(近衛文麿とルーズベルト/中川八洋著112ページ/PHP研究所/1995年初版発行)

 陸軍中央が支那事変の処理を巡り百家争鳴のごとき混乱に陥り、汪兆銘工作を推進する影佐機関とそれに反対し蒋介石に対する直接和平工作を推進する小野寺機関が激しく対立抗争していたとき、近衛の最高政治幕僚として或いは「進歩的な支那問題の権威」として政界言論界の重鎮を為した尾崎秀実は次のように世論へ訴えかけていた。

 人々が汪精衛運動の発展に期待することは、この運動がやがて東洋の天地を被う陰惨深刻なる日支抗争の現状を打開する結果を齎すであろうということだと思われる。それはまさに日本政府の立場から見れば、事変処理方策の内容決定を意味するものであるわけである。しかしながら我々は汪精衛運動の期待を決してそのような手近な方便の上に置かんとするものではないのである。それはこの運動の発展自体が支那の再建過程を通じて将来本極りの日支関係をつくり上げ、かくて東亜の新秩序の誕生を待つ段取りとなるであろうと信ずるがためである(中略)。

 日本の当局者の責任は与うかぎり速かに汪運動の全貌を国民の前に明らかにし、国民をしてこれを理解せしむるべきである汪精衛運動が支那再建の唯一の方策であり日本としては全力を挙げてこれを守る以外に良策なきこと、しかもこれは日本が後日大陸に雄飛し得べき具体的な足がかりを提供するものであることを明らかにすべきである

 日本人はまず心を虚しうして汪運動の前進をはかるべきである。戦勝者の威容をつくることも悪くはあるまい、特殊の要求を持ちこむことも技術的に不可能ではあるまい。後日の保障を求めて置くことも無意味ではないかもしれない。しかしながらあらゆる問題の中で何が一番大切かといえばともかくも多くの困難なる条件によって発展の可能性を縮小されている汪精衛政権の誕生と発展とをはからなければならないということである

 汪精衛運動が民族運動のヘゲモニーを重慶政権との間に争うべき最後の段階はやがてその後に到達するであろう(尾崎秀実著作集2巻375~378ページ、公論昭和十四年十一月号「汪精衛政権の基礎」)


 日本国内で汪兆銘政権樹立工作を熱心に推進していた支那問題の権威は、ソ連のスパイ尾崎秀実であった。この事実に気付かなかった中村粲は、戦後日本の歴史学界に出現した「汪兆銘の再来」であったと評しても過言ではないだろう。

 満州国建国後の大日本帝国は、蒋介石の中華民国(現台湾)と提携し機を見て北進、ソ連を撃滅して北樺太を我が国に奪還し、沿海州を満州国に編入すべきであった。

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posted by 森羅万象の歴史家 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 過去を旅する歴史コラム | 更新情報をチェックする
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Tracked: 2010-09-04 12:42
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