2010年09月01日

史料読みの史料知らず-保阪正康と広瀬順皓の昭和史の一級史料を読む

「史料読みの史料知らず」とは、昭和史の一級史料を読む(平凡社新書/2008年5月初版発行)の著者である保阪正康と広瀬順皓のことを指す。

 保阪は2004年に一連の昭和史研究で菊池寛賞を受賞したノンフィクション作家。広瀬は国立国会図書館憲政資料室勤務を経て、駿河台大学文化情報学部教授

 「昭和史の一級史料を読む」中の二人の対談が雄弁に語る歴史の真実は、人文系のプロ作家とプロ学者が低劣きわまりないということである。それを立証するために、先ずこの本の第7章2「近衛上奏文を読みとく」244~262ページから二人の間抜けな発言を以下に引用する。

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広瀬「近衛上奏文の意図するところは、まず国体護持です(中略)。高度国防国家のために統制が強化され、それに彼は手を貸している。統制強化はまったく共産主義とは関係ないのに、軍部一味の共産主義ではなかったかとか言っている。これは近衛の妄想というか、どう読み取ったらいいのかよくわからないところがあります」

保阪「ジョン・ダワーの吉田茂とその時代に吉田がこの上奏文を書いて、近衛はそばで見ていたように書いてあるんですが、それはともかく、これを吉田が書いたと読むとよくわかります。ここから先は少し変な考え方だと言われるかもしれませんが、吉田が天皇を脅かしているのではないかと思うんです。
 つまり陛下の傍にいる軍の連中はとんでもない奴らで、彼らの主体的意思はどうであるにせよ、共産主義に踊らされている存在であると、戦争に勝つ見込みはないどころか、彼らを切らないと国体護持は叶いませんと脅かしているんだと思うんです。早く和平をするべきだというふうに。」

広瀬「ただ、そう考えると、軍部内一味というのは具体的にいうと統制派ですか。」

保阪「私は本土決戦派を指していると思います。そこで矛盾しているのは、近衛は満州事変、支那事変にかけて皇道派の連中と近かったわけです。」

広瀬「そこが矛盾しているんですよね。」

保阪「それで、昭和十九年の終わり頃から二十年初めに生まれてくる本土決戦派を排除しなくてはいけないと言っているんだと思うんです。」

保阪「近衛は、ここでは宇垣、真崎といった具体的な名前まで挙げていますね(中略)。」

広瀬「このやりとりを見ていると、統制派を一掃して、皇道派を起用せよと言っているのですが、統制派が革命を企図しているような様子はまったくないし、皇道派を起用したからといって戦争をやめられるかというと、そうではない。軍部の性格が変わったからといって、英米が戦争をやめるというようなことは、まったくないわけです。こういう意味でいうと、これはあまり意味がない。」

保阪「近衛自身が天皇との信頼関係を取り戻すためにひざまずいて・・・。」

広瀬「信頼を取り戻すための道具として共産主義を使ったのかもしれません。それからこれが妄想であれば、妄想がこんなに緻密に書けるものかというのもあるから、やはり実質的な恐怖を持っていただろうという気もするんです。」

保阪「私はどうも吉田茂の側から見て、早いところ和平の手を打たないと大変なことになると天皇を説得するのに共産主義という道具を使ったとの説が捨てきれない。」

広瀬「それも確かにあると思います。というのは、吉田は戦後も自分の署名を書くときに臣茂と書くような人ですから、共産主義に対してはアレルギーがあるし、外国では容共政権ができてくるという情報はしっかり持っているわけだから、そういう意味では、天皇に対してブラフをかけるというのもあるし、そこに近衛の引け目が乗って、鮮やかな妄想が生まれたと読める気がしますね。」

保阪「これを通弊的に言えば、支配階級の共産主義への恐怖でしょう。ものすごく端的に語っていますよね。そして当たっている面もある(中略)。」

広瀬「そう考えると、前半の冷静な分析と後半の妄想の部分というのは意外とつながるかもしれない。しかも、それが支配層の恐怖をあおるという。それで旗印は国体の護持であるという・・・・。」

保阪「吉田低に入り込んでいたスパイの手記を読んで、ここまでやるのかと思いましたけど、この上奏文自体が二十年二月段階でかなり重い意味を持っています。このときに他の重臣たちは情報が閉ざされていて、大したことは言えなかったわけですから。」

広瀬「この場合は主要人物が近衛というところにすごく意味があって、彼がこういう妄想を抱いたということに二つ目の意味があると思いますね。」


 木戸幸一関係文書257~258ページにある山本英輔の「斉藤実内府に送るの書」(昭和十年十二月二十九日)の中には、国防国家を、

 「国際主義自由主義個人主義思想を芟除し、これらに立脚した、排他的階級的にして、富の偏在、大衆の貧困失業を招来する経済機構を改廃し、国防目的のため、皇国の精神的物質的潜勢力を組織統制して一元的に運営する国家」

と定義した陸軍省の「国防の本義と其強化の提唱」(通称陸パン)の狙いは日本の社会主義(ソビエト)化にありという警告があり、尾崎秀実を筆頭として近衛文麿の周辺に結集していた共産主義者たちは熱心に国家総動員法発動と近衛新体制運動を推進していたのに、「統制強化はまったく共産主義とは関係ない」と断言する広瀬順皓の目は節穴である

 広瀬順皓は、必死になって近衛上奏文は近衛文麿の妄想であるという史観(歴史の見方)を読者に植え付けようとしている。それが余りにも露骨で不愉快である。

 広瀬は、今なおマルクス主義者が闊歩している歴史学会からの追放を恐れる曲学阿世の臆病者なのか、あるいは広瀬自身が大東亜戦争に対する責任追及と糾弾の鉾先から共産主義を一心不乱に護りたいマルクス主義者なのか、知る由もないが、このようなお粗末な人物が情報学部教授として学生に一体どんな授業を行っているのだろうか。

 近衛文麿は上奏文中に、

 「昨今戦局の危急を告ぐると共に一億玉砕を叫ぶ声次第に勢を加えつつありと存候。かかる主張をなす者は所謂右翼者流なるも背後より之を煽動しつつあるは、之によりて国内を混乱に陥れ遂に革命の目的を達せんとする共産分子なりと睨み居り候。」

と書いたのだから、近衛のいう「国内革新を唱える軍部内一味」とは一億玉砕を叫んでいた者達と其の周辺人物ということである。一億玉砕の提唱者が陸軍の参謀本部戦争指導班であったことは、太平洋戦争下(児島襄著/中公新書/1966年初版発行)に出ている。

 スミス中将がスミス少将を解任した同じ日、(一九四四年)六月二十四日、東京の参謀本部も、重大な結果を下していた。サイパン放棄である。

 「海軍はあ号作戦に関し陸軍と協議の上、中止するに決す。即ち帝国はサイパン島を放棄することとなれり。来月上旬中にはサイパン守備隊は玉砕すべし。最早希望ある戦争指導は遂行し得ず。残るは一億玉砕に依る敵の戦意放棄に俟つあるのみ」機密戦争日誌六月二十四日(太平洋戦争下212ページ)


 そこで所長は大本営陸軍部戦争指導班 機密戦争日誌(軍事史学会編/錦正社/1998年初版発行)を購入、目を凝らしてこれを丹念に熟読した結果、一億玉砕の提唱者は参謀本部戦争指導班長の松谷誠と同班員の種村佐孝と橋本正勝であったことを掴んだ。

 次に所長は松谷誠の回想録大東亜戦争収拾の真相(芙蓉書房/1980年初版発行)を入手し、これまた丹念に読み込んだところ、この本の第三部終戦処理の記録に収録された国家再建方策の一部に近衛のいう「国体と共産主義の両立論」を発見した。

 続いて所長は約1年半にわたり参謀本部戦争指導班の第一次史料を探し求めた結果、それらは終戦工作の記録(江藤淳監修、栗原健、波多野澄雄編/講談社文庫/1986年初版発行)に収録されていることを知り、これを入手した。この終戦工作の記録は初版発行後すぐに絶版となった不思議な第一次史料集である

 所長は眼の痛みに耐えながらこれを丹念に熟読し、終戦工作の記録上巻第十章幻想の対ソ工作資料73「今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領案」(昭和19・8・8省部主務者案)が近衛上奏文中の「軍部の一部はいかなる犠牲を払いてもソ連と手を握るべしとさえ論ずるものもあり、又延安との提携を考え居る者もありとの事に御座候」に相当することを発見した。

 マリアナ失陥以後の陸軍の対ソ・アプローチは〔資料73〕の対外政略指導要領案に示されている

 「概ね本秋頃を其の結実の目途とし『ソ』をして帝国と重慶(延安を含む)との終戦を、やむを得ざるも延安政権との停戦妥協を斡旋せしめ且つ独『ソ』間の国交恢復を勧奨す」

 具体的には、八月下旬頃に特使をソ連に派遣し、ソ連の対独妥協を勧奨するとともに、日本・重慶間の停戦をも仲介させるというのである。この交渉に際して日本がソ連に提供すべき条件は、1日独防共協定の廃棄、2南樺太の譲渡、3満州の非武装化または北半分の譲歩、4重慶地区はソ連の勢力圏とし、(支那における)日本占領域は日ソ勢力の「混淆地帯」とする、5戦中、戦後における日ソ間の特恵的貿易の促進、などである。

 当時としてはきわめて大胆な譲歩であり、陸軍の対ソ交渉に対する期待の大きさを示すとともに、代償を提供すればなおソ連を説得する余地は残されているという判断の存在を示している。秦彦三郎参謀次長の判断に従えば、「日本の弱化は将来のソ連対米英のバランス・オブ・パワー上ソ連の不利であろう。この点からソ連を我方に引き付ける外交が出来る筈」(中村正吾『永田町一番地』)なのであった(終戦工作の記録上巻311~312ページ)。


 以上の長文を要約すれば、近衛上奏文が昭和天皇に告げた軍部内革新運動の実在を裏付ける証拠史料は、2008年以前に公刊された戦史書と回顧録付属史料と第一次史料集の中に出ているのである(近衛上奏文解説参照)。

 それらを見つけられない保阪正康と広瀬順皓が、「昭和史の一級史料を読む」(平凡社新書/2008年5月初版発行)のなかで近衛上奏文について、あれこれと好き勝手に解釈しているのは、まことに滑稽で、それこそ妄想談であり、看板に偽りありではないか。

 日本国を洗濯して戦後の各界に積もりに積もったアカを洗い落とすのに、どのくらい時間が掛かるだろうか、気が遠くなる・・・。

<関連ページ>

・残りわずか!終戦工作の記録

坂本龍馬のうんちく!龍馬年表

・アカだらけの民主党のレンホウに事業仕分けされます。使えば使うほど水とアカだらけの日本をきれいにする万能バイオ洗剤とれるNO.1

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