2010年08月31日

自民党に蠢く革命思想は憲法を改悪する-中山太郎編纂「世界は憲法前文をどう作っているか」

 衆議院憲法調査会長の中山太郎の編纂した「世界は憲法前文をどう作っているか」は、62ヶ国78件の憲法前文を収録している。それらが示す真実は、人類普遍の原理が国民主権でも政教分離でもなく「憲法典の起草は歴史的法律学に依らなければならない」という原則であり、大日本帝国憲法の前文に相当する明治天皇の「告文」と「憲法発布勅語」こそ人類普遍の真理に合致している。

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 エドマンド・バークの信奉者であった金子堅太郎は、「どう云う風に我々は日本の憲法を起草したかということは中々沿革のある事で、簡単に述ぶることは出来ないが、まず大要だけを述べることにする」と断った上で次のように回顧した。

憲法起草の原則

 そもそもイギリスとアメリカの法律学に三通りある。其の一は哲学的法律学或いは純理的法律学。其の二は比較的法律学。其の三は歴史的法律学である。

 我々がフランス、ドイツ、イギリスその他諸外国の憲法を調べたときも、これらの国々の憲法を比較して、何れの国の憲法が日本に当てはまるかと調査研究して見たが、仏独の二国とも当てはまらない。ただイギリスの憲法史上にある基礎的政治の原則と云う文字は、大いに参考の用に立った。是が即ち比較的法律学の効能である

 而して哲学的法律学は、民法、商法、刑法、訴訟法等を研究するには最も適当であるが、憲法、行政法、国際公法の如きは歴史的法律学に依るのでなければ、其の神髄を理解することが出来ない。この点に付いては日本の憲法学者は、多くの歩み出しから誤っている居ると思う。

 蓋し憲法学の原理は欧米各国を通じて共通一定したるものがないから、憲法は歴史的法律学で解釈しなければ、その肯綮にあたるものではない。さきに述ぶるが如く各国各々その憲法は異なって居る。それは其の筈である。

 憲法は其の国の発達の歴史に依って変遷して行くものであるが、イギリスには憲法という成典はない、憲法的歴史はある。

 それであるからイギリスの憲法を知らんと欲せば、まずその歴史を熟知しなければ分かるものではない。ドイツ学者の著した歴史の理屈でイギリスの憲法を解釈しようとしても、その当を得るものではない。いわんや我が日本の如く、二千五百有余年連綿たる万世一系の天皇がこの国に君臨して、統治権を総攬遊ばされて居らるる国においてをやである。

 それをドイツの憲法学の理屈で日本憲法を解釈しては、その精神および神髄を知悉すること能わざるは当然の事である、憲法は歴史的法律学をもって解釈するに非ざれば、その神髄を得ること能わざるものであるから、我々は即ち筆を執って、歴史的法律学の識見をもって憲法を起草し始めた。決して哲学的法律学の理論によって起草したのではない(憲法制定と欧米人の評論/金子堅太郎著/1938年発行116~118ページ)。


 大日本帝国憲法は我が国の歴史の一部であり、日本法制史および日本憲政史において最も重要な成文憲法典である。枢密院帝国憲法制定会議史料「憲法註解」と「憲法参照」そして帝国憲法のコメンタリー憲法義解は、比較憲法学の成果にして歴史憲法学の結晶であり、明治の政治指導者が後世の日本人に遺した偉大な知的財産である

 それなのに衆議院憲法調査会長の中山太郎の編纂した「世界は憲法前文をどう作っているか」(TBSブリタニカ/2001年11月30日初版発行)には、世界各国の憲法前文に加えて日本国憲法前文とこれについて憲法調査会で表明された意見が載っているが、大日本帝国憲法の前文に相当する明治天皇の「告文」と「憲法発布勅語」が載っていないのである。

 中山太郎は、この本のはじめに、二十一世紀の日本のあるべき姿を考える上で世界の国々はどういう「国のかたち」を考え、それを憲法前文に表そうとしているのかを知ることは大変重要であるといいながら、帝国憲法を無視するのである。

 なぜなら中山太郎はフランス革命を肯定的に評価しており、欽定の帝国憲法を近代以降の立憲的な憲法とは見ていないのである。中山および自民党の憲法観を示す中山の文を以下に引用する。

憲法とは何か?

 憲法とは、歴史の中で発達してきた観念であるといわれています。もともと、憲法は、国の基本的なシステムや根本的な秩序を定めるルール全般を意味するものとされていました。

 しかし、市民革命を経て個人の尊厳や人権の尊重が重視されるようになると人権を守るために憲法により国の権力を制限すべきであり、また国民が憲法制定権力(憲法を作り国の機関に権限を与える権力)を持つべきであるという立憲主義に基づく考え方が強く意識されるようになりました。

 そして多くの国において、人権規範や国民主権といった内容を含んだルールが憲法典として文章化されるようになってきました。このように、近代以降の憲法は、国の権力を制限して国民の権利・自由を守ることを目的とするものであり、今日では、この立憲的意味の憲法こそが「憲法」と称するふさわしいものであると一般的には考えられています(世界は「憲法前文」をどう作っているか8ページ)。


 以上の中山太郎の解説は真っ赤な虚偽である。少なくとも我が国の憲政史には当てはまらない

 政治論略(金子堅太郎著/元老院/明治十四年(1881年)十一月初版発行)

 爾来英國の輿論は囂々(ゴウゴウ-やかましく)「ボルク」を責めて改進党の主義を抛棄して保守党に変じたりと云うも「ボルク」は確固として精神を動かさず節操を変ぜず一身を以て英國政治の犠牲と為し憲法を維持し英帝をして永く英國に君臨せしめんとし自ら奮て一種の政論を主唱し着実主義を標準となし、麁暴急劇なる論説を排撃して大いに英國の輿論を鼓舞誘導したり

 然れども古来の保守党論者が惟因循に流れ旧慣に泥み(ナズミ-とどこおる)天下の大勢を熟察せず苟且偸安の政略を墨守する者の如きは決して取らず。
 深く古来の経歴と先哲の遺業とを回顧し現時の形勢を洞察して政治を改良するの目的を確守し、その旨趣を詳か(ツマビラカ)に著述して新旧の改進党に訴るの書と題し之を天下に頒布したり。

 その論旨は、普く英國政治の沿革史を渉猟し、従来の改進党が確守する所の政略は着実適切にして今の所謂改進党の如く空論に誘惑せられ急劇の挙動を以て政治を改革せんと企つるものの類に非ず。今の改進党が仏國の革命を賞讃するが如きは是れ啻に黄泉の下にある改進党たりし祖先の遺業を遵守せざるのみならず実に英國憲法を破壊するものなりといえり

 その言や慇懃反覆一字一涙誠忠文面に顕われ且つ身を以て國に任じ盛暑の炎熱を厭わず冱寒の凛冽を畏れず日夜奔走し鞅掌尽力至らざるなきを以て、遂に英國人民の迷夢を警醒(ケイセイ-警告して迷いを覚まさせる)し、全國の政治家をして「ボルク」の論説に循うこと水の低きに就くが如くならしめ、大廈を未だ傾覆せざるに支え、狂瀾を未だ頽倒せざるに回し、仏國革命の毒気をして英國の邦土に侵入せしめず以て英國の憲法を千百歳の後に維持し今に至るまで確固不抜の地位を保ち英國帝王をして殆んど五大州裏に君臨たらしむるの形勢をなし、宇内の政治家をして常に英國の政体を称して真正の立憲政体なりと賞讃し往々その模範に倣い政体を改良せんと欲するに至らしめたるものは是れ将た誰の功ぞや。
 全く「ボルク」の一身を以て天下の犠牲と為し英國の安危を以て己の任となして鞠躬尽力せしに因ると云うもまた溢言にあらざるべし


 蓋し「ルーソー」の政治論たるや当時仏國人民が永く君主圧制の下に苦しめられたるを翹げて乱を思うの機会に投じ自己の声望を得んと欲して主唱せしものなれば、その説新奇なるも一己の空論にして政治の実際に適用すること能わざるものなり。故に千七百年代に於ては一時宇内の人心を撹乱するの勢力を逞しうせしも、急進過激の迷夢は千七百年代の歳月と共に経過消散して現今千八百年代に至ては、欧米の政治家は古今の事蹟を竝観対比し秩序を逐い(オイ-追い)次第に進み因て以て政機を運転するにあらざれば、政治を改良し國民をして開明の域に進達せしむること能わざるを悟り、常人といえども多くは「ルーソー」の政論は空中架楼の論説にして啻に(タダニ-単に)政治の実際に適用すること能わざるのみならず大いに社会を擾乱せしものなることを覚知せり

 然り而して「ボルク」の論説たるや当時あるいは「ルーソー」派の政論に排撃せられしといえども、その主義固より平和に出て深く政治の理論と実際とを比較し古来の旧典に拘泥せず現今の好尚(コウショウ-時代の好みや流行)に眩惑せられず政治壇上の閾に跨り古今を竝観して急劇に走らず因循に流れず常に中正(チュウセイ-偏らず正しい)不偏の精神に因て政治の機関を運転せんことを注目せしは即ち米國政事堂の堂宇に在る「ゼイナス」に似たるものなれば、「ボルク」はこれ即ち政治壇上の「ゼイナス」と讃賞するも決して過言に非ざるべし。然れば則ち方今米國の政治家は仰て堂宇の「ゼイナス」を望み以て軽躁急進の弊害を戒め俯して「ボルク」の政論を熟読し誠忠確実の主義に依り國政を商議するものなり

 独り米國の政治家のみ然るにあらず。千八百年代欧州政治の「ルーソー」を取らざるに至りしものは蓋し「ボルク」與つて(アズカッテ)力あるものならん。嗚呼匹夫而為百世師、一言而為天下法とはそれ「ボルク」の謂乎。


 フランス革命が左翼全体主義の起源であり人類の負の遺産である(ヴァンデ戦争―フランス革命を問い直すや正統の哲学 異端の思想―「人権」「平等」「民主」の禍毒参照)。このことが明らかになっている21世紀の初頭において、現存する世界最古にして最長の王朝である日本国の保守政党を名乗る自民党の長老が「第三身分とは何か」を著したシェイエスの革命的憲法論を立憲主義に基づく考え方と言うのである。

 19世紀末に伊藤博文ら帝国憲法の起草者たちは、フランスに暴力革命とその後の約一世紀にわたる混乱をもたらした元凶がルソーの主権在民論とルソー信徒であったシェイエスの革命的憲法論(憲法制定権力論)にあると看破し、これを断固として日本の憲法から排除したというのに、衆議院憲法調査会長を務めた自民党の中山太郎は、21世紀に生きる保守政治家でありながら依然として帝国憲法の起草者たちの足元にも及ばないのである

 重ねて強調するが、枢密院帝国憲法制定会議史料「憲法注解(説明)」と「憲法参照」そして帝国憲法のコメンタリー憲法義解は、比較憲法学の成果にして歴史憲法学の結晶であり、明治の政治指導者が後世の日本人に遺した偉大な知的財産である。

 だからせめて日本の政治家および政治家を志す日本人ぐらいは、それらを熟読し日本国の危機を告げる帝国憲法の起草7原則を知り枢密院帝国憲法制定会議の列席者の叡智を吸収してから日本の憲法を論じるべきなのである

<関連ページ>

・フランス革命思想を斬殺し日本国憲法第9条を無効にしてしまう偉大な大日本帝国憲法原案第七十三条説明

NHKに通じる岩波書店の情報操作 ベルギー憲法と大日本帝国憲法

・戦後日本国を衰退させる諸悪の根源マッカーサー占領軍憲法を13階段の死刑台に上らせる者は、今憲法の真相を知らない貴方(あなた)ご自身です

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posted by 森羅万象の歴史家 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 本当は怖い憲法のはなし | 更新情報をチェックする
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