「GHQが政府に憲法の改正を命じると、各政党や民間でも多くの憲法草案がつくられました。そのうち、憲法研究会がつくった草案は、国民主権や基本的人権の尊重の考え方にもとづく画期的なものでした。この会には、憲法学者や自由民権運動の研究者がいて、一八八〇年代、大日本帝国憲法がつくられる前に民間でつくられた、さまざまな憲法草案を参考にし、その精神が受け継がれたからです。そしてその草案はGHQに提出されました。
政府の憲法改正案は、大日本帝国憲法の字句修正にすぎなかったため、GHQは、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重を三つの柱とする案を示しました。それは、形のうえでは日本政府に押し付けられたといえますが、内容の点では、明治時代の自由民権運動以来、国民が望んでいたものがようやく実現したといえるものでした。事実、日本国憲法制定後、国民の圧倒的多数はそれを支持してきました」
我が国の左翼勢力が称揚する憲法研究会の中心人物にして自由民権運動の研究者であった鈴木安蔵は、「一八八〇年代、大日本帝国憲法がつくられる前に民間でつくられた、さまざまな憲法草案」のうち最も代表的な憲法草案を「憲法制定とロエスレル」(99~135ページ)に掲載している。それを以下に引用する。
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明治十四年政変当時における民間の支配的憲法論-憲法草案
我が憲法制定の根本方針は、(明治)十四年政変を機とせる岩倉具視の憲法意見提出によって決定されたのである。岩倉の憲法論の史的意義を理解するには、当時の我が国を支配せる憲法制定・国会開設論、憲法私案の性質を明らかにせねばならぬ。
明治十三年から十四年にかけて、自由民権運動は全国を風靡し、全国到るところに国会開設請願運動が展開され、立憲政体樹立を要望する大小各種の政治結社が簇生(註、そくせい、簇の意味は「むらがる」)した。
それらの運動、諸結社の主張するところはそれぞれ異同もあるが、現在の有司専制を廃して立憲政体を樹立する点で軌を同じうした。而してその最も代表的なる憲法意見は立志社ならびに同系の憲法論と交詢社ならびに同系のそれとである。特に交詢社的主張は最も広く普及し共鳴されていたように思われる(中略)。
しからば交詢社系の憲法論は如何なるものであったか。今その典型的資料として「郵便報知新聞」紙上に明治十四年五月二十日以降六月四日に亙って掲載されし「私考憲法草案」を挙げ得る。代表的憲法草案としては交詢社の「私擬憲法案」を挙ぐべきであるが、この「私考憲法草案」は交詢社案と以下見るごとく多少表現の相違はあるが、その根本趣旨は同一であり、加うるに交詢社案になき条文註解があるので研究に便であるから、これを主として参照しよう。その主要箇条ならびに註解を見れば、略々この派の意見を知り得るだろう。
明治十四年五月二十一日郵便報知新聞社説「私考憲法草案」(カッコ内は交詢社の私擬憲法案)
第一章 皇帝の特権
第一条 皇帝は万機を主宰し宰相並に左右両院に依りて国を治む政務の責は一切宰相に帰す
(第一条 天皇は宰相並に元老院国会院の立法両院に依て国を統治す 第二条 天皇は聖神[ママ]にして犯すべからざるものとす政務の責は宰相之に当る)
第二条 皇帝は左右両院において議決せる日本政府の歳出入租税国債諸般の法律を批准す
(第三条 日本政府の歳出入租税国債及諸般の法律は元老院国会院において之を議決し天皇の批准を得て始めて法律の効あり)
第三条 皇帝は行政並に司法の権を有し行政及び司法の官吏をして法律を遵奉して各其務に任ぜしむ
(第四条 行政の権は天皇に属し行政官吏をして法律に遵い総て其事務を執行せしむ 第五条 司法の権は天皇に属し裁判官をして法律に遵い凡て民事刑事の裁判を司らしむ)
第四条 皇帝は諸般の法律を布告し陸海軍を統率し外国に対して条約を結び戦令を発し講和を為し官吏を命じ爵位を授け功労を賞し貨幣を鋳造し罪人を懲罰し罪犯を宥恕し左右両院を開閉し中止し左議員を命じ右院を解散するの権あり但し海関税を更改するの条約は予め之を左右両院の議に付すべし
(第六条 天皇は法律を布告し海陸軍を統率し外国に対し宣戦講和を為し条約を結び官職爵位を授け勲功を賞し貨幣を鋳造し罪犯を宥恕し元老院国会院を開閉し中止し元老院議員を命じ国会院を解散するの特権を有す但し海関税を更改するの条約は予め之を元老院国会院の議に付すべし)
第五条 皇帝の官費は毎年国庫より納むべし
第六条 皇帝は内閣宰相を置き国政を信任すべし
(第七条 天皇は内閣宰相を置き万機の政を信任すべし)
私考憲法草案第一条註解
皇統一系万世無窮天地と悠久なるは我が日本建国の大本にして敢えて臣下の議すべき所にあらず又皇祚継承の事も皇太子若しくは皇嫡女の践祚するは皇帝の特旨に由るといえども古来より慣例ありて皇嗣は自ら御男子と定まりしことなり。
これ等は憲法の明文に掲げざるも臣子たるもの固より不文の大典を奉じ敢えて渝(かえ)ることなきは亦天地と悠久なるべき筈なるを以て余輩の私考に拠れば皇祚及皇嗣云々を憲法の明文に掲ぐるは故らに尊厳に触る恐れなきにあらざるを以て敢えて之を記せず。
且つそれ憲法を定立するは即ち益々皇室の基礎を鞏固にし国家の安寧を保持するの主意に外ならずを以て故らに皇祚皇嗣の箇条を明文に記せざるを是とす。これ余輩が巻首に皇帝陛下の特徴を記載し不文の大典すでに固定し千古に渉りて明々白々たる皇統皇嗣のことを書かざる所以なり。
近来英人が時刻の憲法を記したる書冊中には往々帝室の瑣々たる事項を記しあれども英国は憲法すでに定立せること久し故に今日其の国憲を記すものは唯現時に行わるる実事を載記するものなれば我が国のごとく未だ立憲の制あらざるにおいて其の参考案を立るもの之を見て直ちに明文に掲ぐると否との区別を定むべからざるを信ずるなり。
皇帝は万機を主催したまうといえども政務の責に任じたまわざる所以は皇帝は神聖にして犯すべからざるものなるが故に総て宰相の責任に帰するものなりとす。
交詢社は明治十二年九月二日、福沢諭吉、小幡篤次郎、小泉信吉、阿部泰蔵、江木高遠、荘田平五郎、矢野文雄、中上川彦次郎、藤田茂吉、箕浦勝人、九鬼隆一、門野幾之進、馬場辰猪その他三十一人が会合して設立したもので、彼らは慶応義塾の関係者である。「私擬憲法案」は「交詢雑誌」第四十五号(明治十四年四月二十五日)に発表された。郵便報知新聞の「私考憲法草案」の執筆者は藤田茂吉、箕浦勝人らと推定される。
交詢社の「私擬憲法案」および郵便報知新聞の「私考憲法草案」の模範はイギリス憲法であるが、両案とも帝国憲法に似ている。とくに天皇の地位と権限に関しては帝国憲法に酷似している。いずれも「主権在民」を打ち出していないのである。また皇位継承は古来よりの慣例-不文の大典に拠り、敢えてこれを憲法に掲げない趣旨を述べる「私考憲法草案」第一条註解は、伊藤博文の憲法義解第二条解説とほぼ同じである。
両憲法案を読み終えた時の所長の感想は、「伊藤博文は交詢社系憲法試案を剽窃して帝国憲法原案を作ったのではないか」というものであった。
よく考えてみれば、帝国憲法の模範がプロイセン邦憲法であるとの俗説が正しくとも、プロイセン邦憲法の模範はベルギー憲法であり、ベルギー憲法の源流はイギリス憲法である。そしてベルギー憲法はプロイセン邦憲法と同じく帝国憲法の模範である以上(正統の憲法 バークの哲学)、帝国憲法がイギリス直系の交詢社憲法案に似るのは当然のことであった。
明治13年から14年にかけて日本全国を風靡した自由民権運動を代表する交詢社系憲法案は帝国憲法によく似ており、主権在民を規定していない以上、マッカーサー占領憲法(日本国憲法)は帝国憲法違反である(占領憲法の正體)ばかりか、明治の自由民権運動の憲法思想(自由民権運動の系譜―近代日本の言論の力)からも懸け離れているのである。
日本国憲法が「内容の点では、明治時代の自由民権運動以来、国民が望んでいたものがようやく実現したといえるものでした」という東京書籍中学校教科書(平成9~12年度版、採択率41.1%)の記述は真っ赤なウソである。我が国の公教育は無数の生徒の脳裏にウソとデマを刻み込み、亡国のマッカーサー占領憲法を支持する有権者を生産しているのである。
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