「国家の主権的権利としての戦争は廃棄される。武力による威嚇または武力の行使は、他国との紛争を解決する手段としては、永久に放棄される。
陸軍、海軍、空軍、その他の戦力は認められず、交戦権は日本に与えられない。」(総司令部案第八条)
一九八四年十一月、西修教授がケーディスと直接会見し、なぜ民政局はこのような修正を行ったのか質問したところ、彼は「非現実的と思ったから」と答えたという。
日本政府は総司令部草案を日本語に翻訳してこれに基づき憲法改正草案を作成し、総司令部案第八条に若干の字句の修正を加えて、これを第九条に移し、昭和二十一年六月二十日に開会された第九十回帝国議会に政府の改正草案を提出した。
そしてこれが衆議院に設置された芦田均を長とする特別委員会で審議された際に、日本の丸腰状態の永続化を危惧する芦田委員長が、占領軍総司令部に気づかせぬまま、我が国の自衛権を留保し将来における自衛軍の再建を合法化するという含みを第九条に持たせる為に、九条第二項に「前項の目的を達するため」という字句を挿入し、今日の占領憲法第九条が成立した。
第九条原案の芦田修正によって日本国軍隊が出現する可能性が生じてきたことに気づいた極東委員会は、芦田修正を容認する代わりに、占領軍総司令部を通じて日本政府に、第六十六条第二項「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」(文民条項)を占領憲法典に追加挿入することを要求してきたのである。
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日本国憲法の制定過程に現れた占領憲法第九条の最終的な立法趣旨-正当解釈は、ものすごく分かり難いが、我が国が自衛権を行使するための国防軍の保持を禁じているとは言い難い。しかし帝国議会による修正という形で行われた第九条の修正(衆議院)と第六十六条第二項の追加挿入(貴族院)も、実は帝国憲法第七十三条違反なのである。
更に帝国憲法第七十三条の改正規定については、殆どすべての学者は一致して帝国議会は改正案に対して、ただ可否の議決をなし得るのみで修正する権限はないと解した。その点については、上杉慎吉、清水澄、筧克彦、佐々木惣一等何れの学派も一致していた。ただ独り美濃部氏のみは議会の修正権を条件付で認める説を立てた。しかし美濃部氏といえども、議会は提案せられし条項についてのみ修正し得るもので、新たなる条項を追加修正する権限は認められぬとしているのである。
然るに事実においては新憲法は、数十ヶ所の修正を加えしに止まらずして、少なくとも四ヶ条以上の追加修正を加えて議決せられた。それは一般通説によれば勿論のこと、最も例外的異色ある美濃部説を援用しても、その成立が適法であるとは云い難いのである(葦津珍彦選集1天皇・神道・憲法698ページ)。
殆どすべての学者は一致して帝国議会は改正案に対して、ただ可否の議決をなし得るのみで修正する権限はないと解したのは何故か。その理由は、帝国議会に修正権を与えることは第二の発議権を認めることとなり、天皇に専属する憲法改正の発議権を侵害することになるというものであった。
彼ら学者の帝国憲法第七十三条解釈が正しいことは、伊藤博文が枢密院帝国憲法制定会議に提出した帝国憲法草案第七十三条説明によって証明される。
・帝国憲法草案第七十三條 将来此の憲法の條項を変更するの必用あるときは上諭を以て議案を帝国議会に下附すべし
此の場合に於て両議院は各其の総員三分の二以上出席するにあらざれば議事を開くことを得ず出席議員三分の二以上の同意を得るにあらざれば何等の変更も之を決議することを得ず
【憲法説明】
恭て按ずるに、憲法は我が天皇の親しく之を裁定し、上祖宗に継ぎ下後世に遺し、全国の臣民及臣民の子孫たる者をして其の條則に遵由して以て不磨の大典となさしむる所なり。故に憲法は紛更を容さず。
但し法は、社会の必要と人民の進歩とに調熟して其の効用を為す者なり。故に国体の大綱は万世に亙り永遠恒久にして移動すべからずといえども、政制の節目は世局民度と倶に事宜を酌量して之を疏通するは、また将来に在てやむべからざるの必要たらずんばあらず。この変状に応ずるの処分は蓋し憲法上の一大問題たり。
本條は将来に向て此の憲法の條項を修正するの事あるを禁ぜず。而して憲法を修正するの権を以て普通立法の道に依らずして更に特別の方法を定めたるは、特に之を慎重するの已むを得ざるに由るなり。
普通の法案は政府より之を議会に下附す。而して憲法修正の議案は上諭を以て之を下附するは何ぞや。憲法修正の権は当初制定の権と均しく天皇に属すべければなり。修正の権既に天皇に属す、而して仍之を議会に付するは何ぞや。一たび定まるの大典は臣民と倶に之を守り王室の専意を以て之を変更することを欲せざるなり。議院に於て之を議決するに通常過半数の議事法に依らしめずして、必ず三分二の出席と同意を望むは何ぞや。将来に向て憲法に対する保守の方向を扶持するなり。
(附記)之を欧州に参考するに、彼の憲法を以て普通の法律とし、更に特別の価値を付せざるの国は(英国)是れ其の国民の積世に養成せる保守の気風に富むに依り、基址鞏固にして自然に移動紛更の弊を免るる者なり。
もしそれ其の軌轍に模倣するの国にして八十四年の間に(千七百九十一年より千八百七十五年に至る)九たび憲法を改正し其の中には僅か十八年を継続するを得たるの不幸なる結果を見るが如きは(仏国○ダレスト氏に依る)、豈(あに)国民の随時に集合する多数の意向を以て憲法の上に最高無上の権力あることを認めたる、空想学理の流禍に非ず乎。
【憲法参照】
巴丁 第六十五條 憲法を補足し或は之を解釈し或は之を改正するを目的とする法律案は各議院に於て出席議員三分の二の同意を得ざるべからず
巴威爾 第十章第七條 憲法は国会の承諾なくして修正増補するを得ず
修正増補の議案は国王独り之を提出し国会は其の提出の議案に就て議事を行う
其の議決は各院の議員四分の三以上の出席ありて三分の二以上の多数あるを要す
白(ベルギー) 第百三十一條 立法権は憲法某々の條の改正を宣告すべし
此の宣告の後両議院は当然に解散す
更に第七十一條に従い新に両議院を召集す
新徴の両議院は王と協同して改正の條件を議定す
此の場合に於ては各院を組織する議員少なくとも三分の二出席せざる時は議事を開くを得ず而して其の投票少くとも三分の二以上に充たされば改正を承認するを得ず
荷(オランダ) 第百九十六條 根本法修正の議案は明に修正の條々を示す法律は其の議案を審議すべき旨を宣告す
同 第百九十七條 此の法律の公告の後両議院は解散す
新撰の両議院は此の議案を議し議員三分の二以上の投票を以て此の法律の提出したる修正を承認するを得べし
同 第百九十九條 王及国会の決定したる根本法修正の個條は公式に従て発布し根本法に合併すべし
普(プロイセン) 第百七條 憲法は法律を制定する通常の方法を以て修正するを得べし少くとも二十一日の時間を要する両度の投票に於て過半の多数あるを要す
丁(デンマーク) 第百九十五條 現在の憲法に入るべき増補及改正の個條に関る議案は国会の通常会若しくは臨時会に提出するを得べし
根本法の新條に関る議案両議院の認定する所となりて政府より効力を與えんと欲する時は国会を解散し更に両院の為に議員を選挙すべし新徴の国会の通常会に於て変改なく再び承認し王之を裁可したる時は其の條は憲法の効力を得べし
米(アメリカ) 第五章 国会は両院議員三分の二以上憲法の修正を必要なりとする時または各州立法府の三分の二より請求する時は民会を召集して修正の議案を発すべし此の議案は国会の定むる所の程式に従い各州の立法府の四分の三或は其の各州立法府より出たる民会の四分の三以上の批准を得たる時は法律たるの効力を有し憲法の一部となるべし但し千八百八年の前に為したる修正は何等の方法に於ても第一章第九條の第一項及第四項を変することなく而して一つの州も其の承認なくして上院に於て投票の平等を奪わるることなし
伊藤博文らの帝国憲法起草を補佐した外国人顧問のロエスラーは、ドイツの進歩的法学者で、ビスマルクにもっとも強く反対して、ドイツに居られなくなった人物である。日本政府が彼を迎えると、ビスマルク首相から抗議が来たほどで、ドイツ法学者のなかでは大の「プロシア嫌い」として有名であったという。
ロエスラーは憲法改正発議権が天皇に専属することを憲法に明記することに賛同したものの、天皇にのみ発議権を確保しさえすれば、天皇の改正発議が容易に成立するように英国流軟性憲法とすることこそ君権の強大なることを示すのに、伊藤博文らが、憲法制定後は天皇の発議でも改正し難い米国流硬性憲法の条件に固執したことについて、ロエスラーは、君権主義者であるはずの起案者(伊藤博文ら)がなぜ君権を自ら束縛するような条文に固執するのか理解できなかったという。
しかし今日の我々日本人は上の憲法説明と憲法義解を読み、伊藤博文らの意図を容易に把握できる。それは日本版フランス革命を断固として阻止し、帝国憲法秩序を維持し、帝国憲法によって強化された国体を護持することであったろう。
憲法が天皇の専意によって勝手に転々と変更されると、やがて臣民は憲法を遵守する精神を失い、天皇に対する不満を募らせる。それは革命の起爆剤となり、天皇は専制のうちに統治権を失う。
だから憲法修正の権が既に天皇に属するにも関わらず、天皇は一たび定まるの大典は臣民と倶に之を守り、王室の専意をもって之を変更することを欲せず、憲法改正案を議会に付し、将来に向て憲法に対する保守の方向を扶持するために、議院に於て之を議決するに通常過半数の議事法に依らしめずして、必ず三分二の出席と同意を望むのである。
伊藤博文ら帝国憲法起草者の凄みは、ジャンボダンの君主主権論からそのアンチテーゼであるルソーの主権在民論が生まれ、ルソー主権在民論を相続したシェイエスの制憲論(第三身分とは何か)がフランス革命の大惨劇を生み、フランスを三世代約九〇年間の混乱に陥れたことを看破し、主権在民を排除して、君民ともに帝国憲法の支配に服従させたことであろう。
「もしそれ其の軌轍に模倣するの国にして八十四年の間に(千七百九十一年より千八百七十五年に至る)九たび憲法を改正し其の中には僅か十八年を継続するを得たるの不幸なる結果を見るが如きは(仏国○ダレスト氏に依る)、豈(あに)国民の随時に集合する多数の意向を以て憲法の上に最高無上の権力あることを認めたる、空想学理の流禍に非ず乎。」
とは至言である。
「国民の随時に集合する多数の意向を以て憲法の上に最高無上の権力あることを認めたる、空想学理」たるシェイエスの制憲論に平伏す芦部信喜ら戦後日本の憲法学界(悠仁天皇と皇室典範参照)に跳梁跋扈している占領憲法有効論者とは何たる見識の違いであろうか。彼らは伊藤博文や井上毅とは正反対に、法の支配を覆し、日本版フランス革命を起こしたくて堪らないのである。
日本国を守りたい気持ちから占領憲法第九条の改正を主張している日本国民の方々には、伊藤博文と井上毅らが日本国を守るために、国内外の歴史を徹底調査し、心血を注いで起草した帝国憲法に立ち返ってほしい。
日本国民が立憲主義を貫徹し、帝国憲法を基準に日本国憲法の効力を判定すれば、もともと日本人に対すると虐めと嬲り-連合国の犯したポツダム宣言違反である占領憲法第九条を殺せるのである。
・皇室・神道・憲法への偏見を正し神国の民の心を説いた葦津珍彦
・生真面目に日本国憲法の三原則を丸暗記している人は不愉快!くさいアカの憲法学を洗い流しましょう!
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