2009年09月30日

「脱・官僚」菅直人の軽率 元イギリス駐日大使クレーギーの助言

 我が国の国家戦略を担当する菅直人は、イギリスの二大政党政治を模倣し、中央官僚に、政党に対する中立的立場を守らせ、政権を担当する政党幹部の政治家の決定に官僚を服従させようとしている。しかし当のイギリスでは、菅直人が模倣しようとしている政党政治家と官僚の関係について批判が起きているという。

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 「脱・官僚」、英国では疑問の声も(TBS Newsi)

 3党の連立が決まり、民主党にとって次の課題は、「脱・官僚」の政治をどう実行に移すかです。

 実は既にこの「脱・官僚」を実践しているのがイギリスです。しかし、イギリスでは今、そのあり方に疑問の声が上がっているのです。

「官僚任せになっていた日本の政治というものを蘇えらせる」(民主党 鳩山由紀夫代表)

 民主党が目指す「脱・官僚政治」、いわゆる政治主導。

「イギリスをモデルにした新しい官僚と内閣の関係をつくっていく」(民主党 菅直人代表代行)

 二大政党制が定着しているイギリスでは、官僚たちがいずれの党にも肩入れしないことが前提として求められ、所属省庁に配置された議員以外との接触も禁止されています。

「政権が保守党から労働党に移れば官僚は労働党を歓迎し、忠誠心をもって彼らの政策実行を助ける」(イギリス公共政策研究所 ガイ・ロッジ氏)

 こうした政と官の関係を次期政権のモデルに掲げる民主党は、イギリスにならい、政府に国会議員100人を送り込み、政治主導を進めることをマニフェストに盛り込んでいます。

 しかし、そのイギリスで今、この政治主導のあり方そのものに疑問の声が上がっているのです。これは、「よい政府」と題されたイギリス議会の報告書です。

 政府に「ジュニアミニスター」と呼ばれる国会議員120人が送り込まれているイギリスですが、この報告書では、その数が多過ぎると指摘しています。

 今年6月、下院の行政特別委員会が発表した報告書の中では、日本の副大臣や政務官に相当する「ジュニアミニスター」について、こんな証言が。

「彼らは出世のためにニュースの話題づくりに必氏だ」

「訳もなくジュニアミニスターの数が多い。やたら記者会見をしたがる」


 「ジュニアミニスター」は、いわば若い政治家の登竜門。経験不足の議員が多いとも言われ、彼らは選挙対策のため、メディアを意識した政策ばかりを打ち出そうとする傾向があるといいます。

「彼らは毎日メディアのコメントに悩まされるようになる。新聞を中心としたメディアを味方につけておくことが絶対的に必要なものになる。選挙対策として。だから、メディアの反応なしでは何も進まない」(イギリス下院行政特別委員会ケルビン・ホプキンス議員)

 その結果、今、イギリスでは長期的視点での政策づくりができないと官僚たちが混乱しているといいます
 さきの総選挙で多くの新人議員が当選した民主党。イギリスで指摘される混乱は起きないのでしょうか。

 菅代表代行とともにイギリス議会を視察した古川元久衆院議員はこう話します。

「日本の場合はまずそもそもそういう(政治主導の)体制が今までなかった。まずは『政』と『官』の役割分担をつくるというところから始めなければならない。大事なことは役所に入っていく政治家が大臣以下、みんなひとつのチームになること」(民主党古川元久衆院議員)

 新人議員で務まるのかとの問いには・・・

「初当選した中にはいろんな経験をしてきている人がいます。そうした経験を生かして官僚を国民の目線で仕事をできるように導いていくことは新人議員でもできると思う」(民主党 古川元久衆院議員)

 イギリス議会の報告書では、ジュニアミニスターたちへの専門的訓練制度の創設をうたうなど、政治家の質の向上について提言しています。

「今、政府はとても不健康なものになっている。政府はときにメディア受けしなくとも正しいと考えるものは打ち出さなくてはならないのに、短期的な視野のメディアに惑わされずに。議員に能力の高い人物が必要」(イギリス下院行政特別委員会 ケルビン・ホプキン)

 議員を政府に多数入れるだけでは真の政治主導は進まない。政治家の資質がより問われることになります。


 イギリスでは庶民院(下院)に対して貴族院(上院)が健在であり、公選議院-政党政治の数々の欠陥となって現れるデモクラシー(大衆参加政治)の弊害から王室と国民を含むイギリスを守る貴族制度が生きているが、デモクラシーの弊害を国政から完全には除去できない。政党内閣が行政へ公選議院の欠陥を運んでくるのである。

 だからGHQに、政党の偏張を抑制し「選挙による専制政治」を防ぐための貴族院と貴族制度を破壊された我が国が、安易にイギリスにおける政党と官僚の関係を模倣すれば、公選議院の欠陥が国政の全般を覆い尽くしてしまう。

 イギリスにおける庶民院と貴族院、政党政治と貴族制度はエンジンとラジエーターの関係と同じくワンセットなのに、大衆参加政治の欠陥を是正する貴族院と貴族制度の復活あるいはそれに代替する措置を考慮しない菅直人は、最近いわば過熱気味のイギリス製エンジンを日本に輸入し、ラジエーターを付けずにエンジンを稼動させようという愚か者である。まさに日本の隣国が頻繁に仕出かす猿真似、劣化コピーである。

 なぜテレビのニュース番組に登場する識者あたりが、イギリス庶民院の政党に対する貴族院(上院)の役割を説明し、衆院選の勝利に浮かれたままの菅ら民主党幹部に少し頭を冷やすように忠告しないのか、不思議でならない。

 よく入念に構成された上院(Senate、元老院とも訳される)によって埋め合わせられ得るデモクラシーの欠陥の多くは、人民によって頻繁に選挙される定数の多い議院や人民それ自体に共通している。ザ・フェデラリストはそれらの欠陥を具体的に例示している。

 「上院によって補われるもうひとつの欠陥は、立法の目的や原理について十分な理解が欠けていることである。大部分は私的な欲求を追求するために召集され、短期間その職にあり公務と公務のあいだの時間を自国の法律、情勢、および全体の利益の考察に費やそうという持続的な動機によっては動かされない人々からなる議院は、すべてが彼らに委ねられれば、立法についての信託を履行するに際して、さまざまな重大な過ちを免れるわけにはいかないだろう」(第62篇上院の構成)
 
 我が国の衆議院議員のなかに、自国の法律、情勢、および全体の利益の考察に費やそうという意欲を持つ者がいても、彼らは公務と公務のあいだの時間を選挙活動に費やさなければならないから、なかなか困難であろう。

 もうひとつの欠陥は、選挙のたびに新人議員が参入してくることから生じる議会の不安定さが国益を著しく害することである。

 「新人議員がいかに有能であろうとも、彼らが絶えず参入してくるために生じる議会の不安定さは、政府において安定した機構が必要であることを何よりも訴えている。各邦においては、選挙のたびごとに、代表の半数が交代していることがわかる。

 人間の交替から見解の変化が起こり、見解の変化から方策の変化が起こるにちがいない。けれども、たとえ優れた方策から優れた方策への変化であっても、取られる方法がつねに変わるということは、深慮という原則と成功の見通しとにことごとく反する

 この所見は、個人の生活についても立証されるけれども、国務については、より重要であるだけでなく、よりあてはまる。

 不安定な政府のもたらす有害な結果をたどるならば、一巻の書物を満たすであろう。私は数えきれないほどの有害な結果の源泉となっていると考えられるいくつかの害悪についてだけ述べるにとどめる。

 まず何よりも、不安定な政府は、諸外国からの尊敬と信頼、そして国家の名声に結びついている利点のすべてを失う
 計画が一貫していないとか、あるいは、そもそも何の計画もなしに身辺を処理していうとみなされている人は、たちまちのうちに、見識のある人びとすべてから、本人の不安定さや愚かさの格好の餌食とみなされるようになる。

 かれのより親しい隣人たちは、かれを憐れむかもしれない。しかし、誰も彼と運命をともにしようとはしないであろうし、少なからず、彼を利用して財産を築く機会を掴もうとする人々がいるであろう。

 国家と国家の関係は、この個人と個人の関係と同じである。ただし、国家はおそらく、個人と比べて慈愛の情をあまり持ち合わせていないので、相手の犯す過ちをむやみに利用するのを避けようとする抑制もあまり働かないという気分を滅入らせるような違いがある。

 したがって国政において見識と安定性とを欠いている国家はおしなべて、より見識を備えた隣国の一貫した政策によって、いつでも損害を被らされうると予測してかまわない。」(第62篇上院の構成)


 まるでアレグザンダー・ハミルトンはタイムマシンに乗って今日のイギリスと日本を訪れ、政権交代後の鳩山民主党政権のブレまくる不安定さと無謀な地球温暖化防止策をつぶさに観察してから「ザ・フェデラリスト」を執筆したようではないか!

 修羅場をくぐってきたハミルトンはアメリカを近代国家につくり上げた天才政治家であったことに疑いなく、イギリスのアクトン卿がハミルトンをモンテスキューおよびバーク以上の天才と褒め称えたことは過大評価ではない。


 伊藤博文が憲法の研究と帝国憲法の起草を行うにあたり「ザ・フェデラリスト」を常に座右に置き繰り返し熟読したことは、立派な従順(良い意見には素直に従う美徳)であり、帝国憲法が、衆議院の欠陥を是正し政党の偏張を抑制し政治権力の平衡(バランス)を取る貴族院の構成に、国の勲労・学識・富豪の士を加えて国民の慎重・練熟・耐久の気風を代表させたことは、まことに科学的で合理的であった。
 
 だから日米開戦時のイギリス駐日大使クレーギーは、我が国の敗戦後、帝国憲法の変更に先立ち、

「日本においては、天皇制の廃止は急激に混乱を招来する。現行帝国憲法は、二三ヶ条を書き直すだけで、立派な政府を作り上げるための支柱たらしむるを得る。それには責任内閣制を確立し、上院の代表的性質を強化し、これに対して下院の軽率を是正するに足る権限を与ふるを要する」

と述べ、帝国憲法を擁護したという(憲法研究1959年270ページ)。

 しかし戦後民主主義(占領憲法体制)は下院-衆議院の軽率を助長し拡大する政治改革や国民教育を重ねてしまい、戦前世代の殆どがこの世を去った今日、ついに衆議院の軽率の極みである民主党政権が誕生し、好餌として我が国を周辺諸国に提供しようとしている。

 アジアで最初の立憲国家への舵取りを行った伊藤博文は、草葉の陰でザ・フェデラリストと憲法義解の叡智を省みない政治家達の軽率を悲しみ涙を流しているだろう…。

<関連ページ>

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posted by 森羅万象の歴史家 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(1) | 本当は怖い憲法のはなし | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりです。
民主党の政策ですが何ひとつ評価できるものがありません。日本を本当によくするにはまず景気回復を最優先するべきです。ところが民主党は公共事業を潰し、産業を縮小させようとしています。
モラトリアム政策もツケを後に回すだけで冬を厳しくするだけでしょう。民主党は間違いなくルソーの考えた世界を日本に作るつもりなのです。脱・官僚やエリート叩きには何の意味もありません。無意味な権力闘争は民主党信者を喜ばせるだけで時間の浪費といえます。それにしても「少子化消費者担当大臣」って随分言いにくい名前だと思いません? 非常に無駄なポストだと思います。
Posted by 保守主義者 at 2009年10月01日 00:10
 保守主義者さん、政権交代こそ最大の景気対策とかいう民主党の選挙スローガンは真赤なウソになりましたね。
Posted by 森羅万象の歴史家をめざす所長 at 2009年10月01日 23:11
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