一人は労働組合代表のウラディミール・ヴォイチンスキー。かつて彼は10年以上にわたりロシア皇帝への政治闘争を行い、シベリアで長い収監を経験するが、1911年の第一次ロシア革命により帝政が崩壊したのちは、穏健派となり、今度はレーニンの率いるボルシェビキ運動と闘った。レーニンが全面勝利すると、ヴォイチンスキーはロシアにドイツに亡命しADGBの統計局長と経済顧問を務めていた。
彼は1929年の初めから季節変動要因を除去したドイツの失業率が急激な上昇を示していることに注目していた。失業対策は、ロシア時代からの彼の得意分野であったが、このときADGB上層部の支援のもとで、独自の失業対策を発表する。その柱は、100万人規模の失業者の雇用を目的とした公共事業であった。しかも、それを実施するための財源は赤字国債の発行でまかなうという先駆的な「ケインズ的政策」であった。
当時のドイツにおいてはデフレが急速に進行していた。経営に行き詰まった商店や工場が商品を投売りする一方で、消費者は物価がさらに下落すると予想して買い控えを行った。その結果、実際に、物価はますます下落した。それでも賃金だけはあまり低下しないので、割高となった労働力が解雇されていった。
ヴォイチンスキーは、不況のメカニズムを観察し、需要を経済に注入する政策によって、とめどもなく続くデフレ・スパイラルに歯止めをかけることができると確信した。その具体策として公共事業を提唱したのであった。
もう一人の経済理論家は、社会民主党代表のルドルフ・ヒルファーディング。彼は自他ともに認めるマルクス以来の最大のマルクス経済学者であり、党の理論的権威であった。
ヒルファーディングの理論は、資本主義の発展とともに産業を支配する権力は銀行に集中するので、銀行を支配できれば社会主義への移行は暴力革命なしに可能になるというもので、社会民主党の政策方針に影響を与えてきた。ヴォイチンスキーが公共事業案を公表して以来、ヒルファーディングは彼と事あるごとに衝突し、ヒルファーディングを理論的権威と仰ぐ社会民主党は、党機関紙を通じてヴォイチンスキーの提案に対して、インフレを招くという攻撃を繰り返していた。この恐怖戦術は「ハイパーインフレ」の記憶が生々しく残るドイツでは効果を上げていた。
ケインズの先駆者たるヴォイチンスキーと、マルクスの後継者たるヒルファーディング。この二人の経済理論家の間で交わされる論争には、社会民主党のみならずドイツの命運がかかっていた。果たして軍配はどちらに上がったのか?
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この会議では、組合と党に対して中立の立場に立つ経済学者、権威あるゲルハルト・コルムが呼ばれて、まずヴォイチンスキー提案を説明した。物価水準と経済水準とは、貨幣供給量と信用量とに影響されて決まる。また公共事業は需要回復のために適切な政策だ、といったコルムの説明を聞いていたヒルファーディングが次のように発言した。
「コルムとヴォイチンスキーは、われわれの理論的基盤そのものを攻撃している。すなわちマルクスの労働価値説である。われわれの思想は、『労働』、そう『労働』だけが価値の基盤だという信念に立脚している。
たしかに、現実には、価格は需要と供給の働きで労働価値から乖離する。資本主義は無政府な経済状態を助長するのだから、不況が起こるのはまさにその産物なのだ。ともかく、不況が終わるか、その前に資本主義が崩壊するかのどちらかでしかありえない。もし二人が公共事業によって不況を克服することができると考えているのなら、それは二人がマルクス主義者ではないことの単なる証明にしかすぎない」
ヒルファーディングは、まじめな議論をするにもあたらないと我々をバカにしているから、こんな愚にもつかぬ決まり文句を並べているのだ、という考えたヴォイチンスキーは次のように反論した。
「失業者の数はますます増加している。国民の忍耐も限界にきている。生活困窮の原因がわれわれにあると考える労働者は、社会民主党を捨て、共産党やナチス党の支持に回っている。われわれは敗北しつつあり、もはや時間はあまり残されていない。だから手遅れにならないうちに何かをしなければならない。
われわれの計画は『何とか価値論』などというものとは、まったく関係がない。どの政党でもそれを実行できる。いや、どの政党かが、いずれ必ずそれを実行する。ただ一つの問題は、この計画を実行するイニシアチブをとるのが、われわれなのか、それともわれわれの敵なのかということだけだ。」
だが、つぎに「ヒルファーディングのいうことは間違っている」とヴォイチンスキーが言いかけた時、それまで一言も発しなかった社会民主党委員長のヴェルスが「ヒルファーディングのいうことは間違っているだと!君はヒルファーディングを嘘つきというのか!」と叫んだ。
たちまち至るところで怒声が飛び交い、会議は収拾がつかなくなった。結局、社会民主党は公共事業案を政策プログラムに採択しなかった。それから一年経たずして国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)政権が大規模な公共事業を開始し、ヴォイチンスキーの確信どおり、見事にデフレ不況を克服した。ドイツ国民は、ナチスを熱狂的に支持し、「ハイルヒトラー!」と絶叫したのであった(以上の参考文献は経済論戦は甦る)
国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)は、労働者階級の救済を目指した左翼政党であった。ヒトラーはレーニンの弟子にあたり、ナチスの宣伝戦術はドイツ共産党のコピーであったから、マルクス・レーニン主義がナチスを産み落としたのである。
そしてナチスは公共事業が不況を克服するというヴォイチンスキーの主張を立証し、挙句の果てにマルクス・レーニン主義の総本山であるソ連に襲い掛かった。ナチスはまさにマルクス・レーニン主義の鬼子であった。
しかしマルクス主義は死ななかった。ヒルファーディングはナチスの強制収容所で非業の死を遂げたのに、マルクス主義は理論的に殺されても死なない。
何故なら共産主義は幽霊だからである(マルクスの共産党宣言)。実体のない共産主義に憑依された人間は、共産主義こそ人類の理想郷と錯覚し、共産主義の到来を予言するマルクス主義に心酔してこれと決別しようとしない。特に日本のマルキストがそうである。尾崎秀実ら共産主義者が尊皇親軍勢力(当時の所謂右翼)に偽装転向したように、日本のマルキストは時代の流行に対応してカメレオンのように姿と形を変え、政権内部に潜り込んでは政策の主導権を握り、祖国を共産革命へ誘う。
新自由主義者(新古典派)の思想はシュムペンターの創造的破壊に辿り着く。これは、デフレ不況時に、政府は積極的に景気対策を打たずに、不況の破壊力に経済を委ねて不良企業を清算(破壊)し、新規事業の出現を促すという思想である。小泉純一郎首相、竹中平蔵経済財政大臣、速水優日銀総裁ら構造改革支持者の思想は、シュムペンターの思想に通底していた。
シュムペンターは隠れマルキストであったから、構造改革路線を支持する新自由主義者(新古典派)は、必然的にマルクス主義者のルドルフ・ヒルファーディングに似て、公共事業という不況克服策を頑なに拒絶し、ハイパーインフレ論を用いて積極財政論者を脅迫する。
だから所長は、構造改革路線を支持する新自由主義者は隠れマルキストではないかと疑ってきたのである。
構造改革路線が現実的に破綻したのに、なお構造改革に未練を残して大規模な景気対策を打てない自民党の立場は、ナチス政権誕生直前のドイツの社会民主党に酷似している。
もし民主党政権が誕生すれば、それは国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)政権誕生の再現である。否、日本国民にとっては、それ以上の悪夢であろう。
民主党は、何よりも日本国の利益を優先する国家主義者でもなければ、日本民族の優秀を誇張する民族主義者でもなく、特亜利益の代弁する反日左翼政党なのだから。
民主党政権は必ず国民の支持を得るために大規模な景気対策を実施するだろう。民主党の応援団であるテレビは、それをバラマキと非難することなく、御用の学者や知識人、評論家、コメンテーターを繰り出して民主党の政策を絶賛するだろう。
民主党の景気対策とマスコミの宣伝戦術が成功したとき、果たして一般国民に、民主党の売国反日政策に抵抗する意志が残っているだろうか。ものすごく不安である。
<関連の記事と書籍>
・不況克服の経済学―「新正統派ケインズ主義」宣言
・大衆宣伝の神話―マルクスからヒトラーへのメディア史
・なぜマルクス・レーニン主義は地獄の門を開くのか
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>民主党政権は必ず国民の支持を得るために大規模な景気対策を実施するだろう。民主党の応援団であるテレビは、それをバラマキとは非難することなく、御用の学者や知識人、評論家、コメンテーターを繰り出して民主党の政策を絶賛するだろう。
>民主党の景気対策とマスコミの宣伝戦術が成功したとき、果たして一般国民に、民主党の売国反日政策に抵抗する意志が残っているだろうか。ものすごく不安である。
私の問題意識と驚くほど一致していますね。
民主党は反日で危険!などといくら言っても意味がないでしょう。多くの国民は自分の生活にしか興味がないですから。
本当の保守というのは、まず第一に経済を良くし、国民の生活をきちんと守らなければならないのであって、反反日とか反特アとかそういうことは政権を維持した上で粛々と実行すればいいのです。
別に声高に主張しなくたって、政権さえ維持できれば国なんていくらでも守れるものです。
小泉はそれを自覚していたから靖国参拝を掲げて自分の正体を隠蔽したのでしょう。そして自民党が小泉竹中構造改革のおかげで結党以来最大のピンチを迎えているのに、それについて謝罪することもなく、自民党をぶっ壊すという自分の役割を終えて満足したかのように、政界から引退する。
小泉のやり方は近衛文麿そっくりです。