2008年10月15日

実務家ケインズ―ケインズ経済学形成の背景

 官僚、政治家、実業家、投機家。ケインズは現実経済の渦中に身を置いて活躍する。その中で培われた実感ないし現実認識と、自らが学び、祖述してきた古典派の教義との間の亀裂は次第に深まり、ついに一般理論で革命的なマクロの貨幣経済学を創り上げる。ケインズ経済学形成の背景にあるのは、痛切な実務経験なのだ。

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実務家ケインズ―ケインズ経済学形成の背景/那須正彦著

目次

プロローグ
第Ⅰ部 実務家ケインズの肖像

第1章 エリート官僚

第1節インド省
進路の模索-学者か官僚か
「経済学がおもしろくなって来た」
文官試験への挑戦
二位合格でインド省へ
インド省での仕事
辞意
インド省勤務の意味するもの

第2節 大蔵省
入賞の経緯 
Aディビジョン 
華やかな社交
和平への動き-パリ平和会議へ

第2章 個人投資家(投機家)
大戦後の生活設計 
投機開始の時期をめぐる問題(インサイダー疑惑)
大戦後の投機活動
破産の危機
資産形成および収入の推移 
証券投資方針の変遷
投資パフォーマンスの評価
リチャード・カーンの回想

第3章 シティの実業家
宿命のライバルそしてパートナーO・T・フォークナショナル・ミューチュアル保険会長
積極的投資政策
プロヴィンシャル保険取締役 
三つの投資会社
シティの実業家としての評価
イングランド銀行理事

第4章 大学管理者その他-カレッジ会計官など
若手フェローとしての活躍
会計官就任
ケインズの投資哲学
幅広い関心-農業経営など
瑣末事への情熱 二つのエピソード
ケンブリッジ芸術劇場

第Ⅱ部 実務家ケインズとその経済学

第1章 ヴィジョン-資本主義経済観
資本主義の現実とロシア革命
イギリスに固有な事情-「英国病」の兆候
パックス・ブリタニカの終焉
自由放任の終焉

第2章 貨幣経済学
マネタリーな経済学 
大学での講義科目と初期の学会活動
貨幣・金融の専門家
『貨幣論』から『一般理論』へ
パラダイム転換の背景-理論と実感のズレ
金融実務家としての実感
シティのヘゲモニー
政策家としての実感-恒常的大量失業の直視

第3章 政治経済学
ポリティカルな経済学-「パンフレットを風に吹きとばす」
ハーヴェイ・ロードの前提
政治とのかかわり
失業対策としての公共投資政策
乗数理論の萌芽
生命の息吹き
政策の理論への先行

第4章 モラル・サイエンス

第1節 モラル・サイエンスとしての経済学
モラル・サイエンスからの出発
論理学的確立論-イギリス経験論哲学の伝統
経済学は本質的にモラル・サイエンス

第2節 ケインズ経済学の基本的フレーム
ケインズ革命の核心
三つのポイント
有効需要の原理

第3節 不確実性・期待の経済学-投資誘因を中心に
不確実性とは?
資本の限界効率と長期期待
株式市場
「美人投票」の比喩と「カジノ」資本主義論
アニマル・スピリット
経済学の本質・方法論

第4節 貨幣愛の経済学-流動性選好説をめぐって
流動性選好利子論
「カレッジ会計官の利子論」(ロバートソン)
不確実性と貨幣 
貨幣愛と黄金慾
貨幣愛と流動性選好
貨幣とは?経済学の永遠の課題

エピローグ
一般理論以後
「単なる経済学者」でも「単なる実務家」でもない
祖国への最後の献身-ノーブレス・オブリージュ
レクイエム

 ロシア暴力革命後から数年を経た1925年に、ジョン・メイナード・ケインズは同年に結婚したばかりの妻の祖国であるロシアを訪れ、その生々しい印象を「ロシア管見」として発表した。

 「レーニン主義は、偽善者に率いられて迫害と宣伝を行っている少数の狂信者の信仰である。レーニン主義は宗教であって、単なる政党ではない」(ケインズ全集第9巻

 ケインズは宗教的に不寛容で思想、言論の自由を圧殺する「赤色ロシア」の重苦しい雰囲気に、甚だしい嫌悪感を覚え、この宗教に従属するけいざいの必然的な非効率性を鋭く指摘した。

 そして自由主義市場経済の自動調整メカニズムが機能不全を起こし、景気の激変、失業の恒常化、富の不公平な分配による貧富格差の拡大、階級対立の激化等が一般化した際に、マルクス・レーニン主義という邪教が人々に憑依し国家を左翼全体主義に転落させることを防ぐために、ケインズが発表した理論が一般理論(1936)であった。

 個人主義は、もし欠陥と濫用を避けることができるなら、他の如何なる体制と比較しても、個人的選択の働く分野を著しく拡大するという意味で、とりわけ個人的自由の最善の擁護者でもある。生活の多様性は、まさにこの拡大された個人的選択の分野から生ずるものであって、多様性を失うことは、画一的あるいは全体主義的国家のあらゆる損失の中で最大のものである。

 そして政府機能の拡張は、むしるこの自由な個人主義を護るためにこそ必要なのだとして、次のように続ける。

 消費性向と投資誘因とを相互に調整する仕事にともなう政府機能の拡張は、19世紀の評論家や現代のアメリカの銀行家にとっては、個人主義に対する恐るべき侵害のように見えるかも知れないが、私は逆に、それは現在の経済様式の全面的な崩壊を回避する唯一の実行可能な手段であると同時に、個人の創意を効果的に機能させる条件であるとして擁護したい。

 今日の独裁主義的な国家組織は、効率と自由を犠牲にして失業問題を解決しようとしているようにみえる。短い好況の時期を除けば、今日の資本主義的個人主義と結びついている-私の考えでは、その結びつきは不可避である-失業に、世界が遠からず我慢できなくなることは確かである。しかし、効率と自由を保持しながら病弊を治療することは、問題の正しい分析によって可能となるであろう。


 マルクスは資本主義の爛熟と崩壊の後に社会主義が到来すると予言した。だから社会主義(共産主義)の実現を欣求するマルクス・レーニン主義者は資本主義の崩壊を助長し、ケインズが「現在の経済様式の全面的な崩壊を回避する唯一の実行可能な手段」という「消費性向と投資誘因とを相互に調整する仕事にともなう政府機能の拡張」を排撃するのである。

 昭和恐慌時、日共の河上肇は、浜口雄幸・井上準之助の緊縮財政をデフレ不況を更に深刻化させ資本主義の崩壊を助長するものと判断してこれを擁護し、高橋是清や石橋湛山らの積極財政路線を非難した。若槻内閣が倒れ犬養内閣の高橋蔵相がケインズの先駆者として積極財政を採った時には、既に陸海軍の少壮将校がマルクス・レーニン主義に憑依され、我が国は朝日新聞出身のソ連スパイ尾崎秀実らによって政府軍部内に巨大な諜報謀略網を張られてしまった

 そして2001年以降のデフレ不況下では、朝日新聞社および新自由主義勢力が小泉竹中の緊縮財政を応援し、今日に至るもケインズ的な積極財政路線を非難し続けており、福田内閣が倒れ、麻生太郎首相が積極財政路線を打ち出したものの、既に蟹工船ブームが起きて多くの若者が左傾化し、北朝鮮を礼賛する日教組と部落解放同盟を支持母体としている極左の民主党が勢いを増している。

 次の衆院選挙にて小選挙区制度の特性が民主党に大勝利を与えることになったら、人権擁護法案、在日永住外国人地方参政権付与法案、万世一系の皇統を断絶する改悪皇室典範などが次から次へと成立し、我が国は二段階革命戦術の餌食になった第二次世界大戦直後のチェコと同じ悲惨な運命を辿るかも知れない。

 「ある日、(その国での話だが)目が覚めてラジオにスイッチを入れると、様子が何だかへんだ。政変?クーデター?どうも、そうではなさそうだ。聞きなれたひとりの閣僚の静かな声が人民に呼びかけている。何と!革命は終わったのだ。始まったとも聞かぬのに!それから一週間、二週間、一ヶ月…大したことも起こらない。その国はいつのまにか『社会主義への道』を歩いているのである」(林達夫「ちぬらざる革命」

 デフレ不況時にケインズの叡智―大きな政府の積極財政路線が封じられると、マルクスの亡霊が思想の墓場から抜け出し嫉妬に狂う人々に憑依する。我々はこのことを再確認できたが、代償として、再び自由主義と国体と国家の独立主権を失う危機に直面している。

 日本の戦後民主主義の歴史教育が真実とは無縁であるが故に、我が国は過去の失敗を繰り返すのである。

<関連文献>

・平成生まれの若者に、マルクスに憑依された敗戦後の日本の知識人、学者、教職員、マスコミのキチガイぶりを、これでもかこれでもかと教える日本戦後史の白眉ひらめきを広めています!


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ラベル:経済
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posted by 森羅万象の歴史家 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 所長が選ぶ名著と迷著の紹介 | 更新情報をチェックする
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