2008年02月13日

1907年ハーグ陸戦法規第43条の沿革と解釈

 1907年ハーグ陸戦法規第43条には「絶対的の支障なき限」という留保が含まれている。

 第43条 国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は絶対的の支障なき限、占領地の現行法律を尊重して成るべく公共の秩序及生活を回復確保する為施し得べき一切の手段を尽くすべし。

 これから導き出される第43条の反対解釈は、「絶対的の支障があれば、占領者は占領地の現行法律を尊重しなくてもよい」ということである。

 従ってハーグ陸戦法規第43条を根拠にしてGHQ占領憲法(日本国憲法)の制定の無効を主張する者は、まず「絶対的の支障なき限」の意味を説き明かし、次に占領者たるGHQには絶対的の支障がなかったことを証明しなければならない。

 しかし1907年ハーグ陸戦法規は言葉足らずであり、国際条約集には其の第43条の「絶対的の支障なき限」の意味は書かれていない。従ってこれを知るためには第43条の沿革を調べなければならない。

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1907年ハーグ陸戦法規第43条の沿革と解釈

 占領地行政の主眼は占領軍自身の安全を確保すると共に住民の福祉を維持するにある。故に占領地に従来行われ来れる法令は、いやしくも占領軍官憲に於いて軍事上の絶対必要ありと認めば如何に之を改廃するも妨げなきが、その必要なき限りは漫に改廃を加えず、努めて之を尊重し、以て民心を安堵せしむるに若くはない。

 故を以て陸戦法規慣例規則は、占領地の尋常法律(軍事関係以外の)及び徴税規則に関し左の二ヶ条を設けた。

第四十三条 国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は絶対的の支障なき限、占領地の現行法律を尊重して成るべく公共の秩序及生活を回復確保する為施し得べき一切の手段を尽くすべし。

第四十八条 占領者が占領地に於いて国の為に定められたる租税、賦課金、及通課税を徴収するときは成るべく現行の賦課規則に依り之を徴収すべし。此の場合に於いては、占領者は国の政府が支弁したる程度に於いて占領地の行政費を支弁するの義務あるものとす。

 右の第四十三条は一八七四年のブルッセル宣言案の第三条を大体踏襲したものである。ブルッセル会議に於ける本問題関係の当初の原案は、

一。一地方を占領したる敵は、作戦の要求に従い及び公共の利益に於いて、平時其の処に行わるる所の法令を完全の効力に於いて維持し、又はその一部に更正を加え、又はその全部を停止することを得。

二。占領軍指揮官は交戦者の権利に従い、己の指揮監督の下に諸官庁ならびに警察及び司法官署の署員をして引き続きその任務に鞅掌すべきことを強制するを得。

三。軍事官僚は地方諸吏員に対し占領中その任務を履行すべきことの誓約を為さしむることを得。且つその要求に応ずることを拒む者は之を免黜し、又その承認したる任務を履行せざる者は之を司法処分に附するを得。

というのであったが、討議の末、之に修正が加わって左の三ヶ条となった。

第二条 正当政府の権力は中止し事実上占領者の手に移れるを以て、その権内に在る総ての方法を以て成るべく公共生活の秩序を回復且つ維持せんことを努むべし。

第三条 前条の目的のために占領者は平時に於いて其の国土に有効なりし法令を保持すべく、必要あるものの外之を改更し、中止し、又は他のものを以て之に代ゆべからず。

第四条 各級の官公吏にして占領者の論告に依り其の職に留まる者は占領者の保護の下に立つべし。彼等は其の自ら承認したる義務の履行を怠るに非ざれば之を免黜し又は懲戒処分に付せず、且つ不誠実に依りてその義務を破るに非ざれば裁判に附することなかるべし。

 第一回ハーグ平和会議に於いては更に研究討議の末、右の第二条と第三条を合一し、第四条を削除し、ここに現行第四十三条と大体同じものを作り揚げた(旧規則に於いても同じく第四十三条である)。

 当時ベルギーオランダ両国代表は、占領地の官吏に直接間接戦勝者の使役に服せしむることを許すが如くに見ゆる規定は面白からざるが故に一切削除すべくその義務、少なくも徳義的義務を尽くすべきものと為すことには異議なしと論じ、大体その意味にて本条が可決せられたのである。

 斯く占領軍が絶対的の支障あるに非ざる限り占領地の現行法令を尊重し、且つ官公吏も成るべく従来通りにその任に当たらしむるの主義は、確かに住民に対して人道的でもあり、賢明でもあり、又占領軍自身に取りても損の無いことである。

 米西戦役中、米軍のキューバを占領したる際、米国大統領マッキンレーの陸軍長官に与えたる長文の訓令(一八九八年七月十八日付)中の一節に、

 『軍事占領者の権能は絶対且つ絶大にして、住民の政治的状態の上に直接働くものなるが、占領地の地方法令、例えば住民の私権及び財産に関するもの、ならびに刑罰規則の如きは、それが占領軍に依りて停止又は改廃せらるる迄は、新事態と両立する限り依然有効のものと認むべく、且つ実際に於いては之を廃棄せずしてその効力を認め、且つ実質上占領開始以前に於けると同じく尋常の裁判をして之を執行せしむるを普通とす。

 この公明なる方針は今日の場合に於いても能う限り之に循行するを要す。裁判官その他司法機関の諸官吏は、米国の優越を承認する限り、米国の軍司令官の監視の下に、民事関係の如き土地の尋常の法令の執行には之を当たらしむべし。土民の警察官吏も能う限りその職に留まらしむべく、民人の生業の自由も、特に必要の場合以外には之を侵すことなかるべし。』

 『米国の占領軍司令官の行動の法則は以上記する如くなると共に、民人の情勢が不幸にして法及び秩序の維持上別種の措置を執らざるを得ざるに至らしめたるときは、之を執ること司令官の義務に属す。

 この場合には土地の吏員の一部又は全部を罷免し又は追放し、現存の法廷に代ゆるに占領軍自身のそれを以てし、また必要と認める新規の又は補助的の法廷を設置するを妨げず。但し司令官はこれ等の高等権能を行使するに方りては思慮、経験、及び高邁の正義観念の指導する所の従い、能くあやまりなきを期するを要す。』

とあるは、占領軍の則るべき方針として要を得たものと謂うべきである。

 占領軍は絶対的の支障なき限り、占領地の現行法律を尊重すべきことの疾くブルッセル宣言案第三条に於いても謳われたことは前述の如くであるが、同会議に於いては別にその議事録に『第三条は左の意味に了解すべし。即ち政治的及び行政的の諸法律は必要の場合には停止、改正、又は置換を為すに妨げなきも、民法及び刑法には触るるべからざるものとす。』との附帯的解釈が留められてある。陸戦法規慣例規則の本条を解するにも亦この精神を重んずべきである。

 もっとも刑法の罰例の如きは、不逞住民の取締上、時には多少の更正を加えて之を実施し、また代ゆるに軍律を以てするの必要もあるべく、殊に特定行為に対する処罰のことが占領地の現行刑法に明文なく、あるも不完全なる場合には、当然新規の規定を以て之を補足するも止むを得ない。

 然しながら民法に関してはホルランドが『刑法、行政法、その他公法の他の部門の法律は之を改更するの要あることもあらんが、私法の諸法規、例えば財産法、契約法、又は親族法の如きに至りては、之に干渉するの要は殆ど無かるべし。』と説く如く、成るべく改廃せざるを可とする。

 されど軍の安全と両立せずというが如き場合にも、全然之に手を触るるを許さずというほど窮屈な訳ではないこと勿論である。殊に現行法律中にありて例えば徴兵令の如き、地方議会及び住民の言論集会に関する法律の如き、居住及び旅行に関する諸規則の如き、いずれも概してその施行の停止又は改廃を免れざる部類のものである(信夫淳平著/戦時国際法講義第2巻685~688ページ)。


 以上が信夫淳平博士の説く1907年ハーグ陸戦法規第43条の沿革である。所長が第43条の意味を判り易くするために、同条に修正を施せば、次のようになろう。

 「第43条 国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は軍事上の絶対の必要なき限、占領地の現行法律を尊重して成るべく公共の秩序及生活を回復確保する為施し得べき一切の手段を尽くすべし。」

 第43条の「軍事上の必要」は、具体的には占領軍の安全を確保する必要のことだから、次の修正がより適切かもしれない。

 「第43条 国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は軍の安全に絶対の支障なき限、占領地の現行法律を尊重して成るべく公共の秩序及生活を回復確保する為施し得べき一切の手段を尽くすべし。」

 1907年ハーグ陸戦法規第43条を根拠に帝国憲法の改正=日本国憲法の制定の無効を主張する者は、我が国の法律体系に全面的変更をもたらす帝国憲法の改正は占領軍の安全を確保するために全く必要なかったことを証明しなければならないが、これは極めて簡単である。

 東久邇宮内閣は軍人の暴発をよく抑えてポツダム条約を履行し日本国軍隊を連合軍に無条件降伏させ、これを解体したのだから、帝国憲法の改正がなくとも占領軍は十二分に安全を確保できた。

 しかし日本を占領した連合軍は、連合国の執行機関としてポツダム条約を履行する軍事任務を帯びていたから、1907年ハーグ陸戦法規第43条を根拠に帝国憲法の改正=日本国憲法の制定の無効を主張する者は、帝国憲法の改正は占領軍の軍事任務の遂行すなわちポツダム条約の履行には必要なかったことを証明しなければならない。これは極めて面倒である。

 まずポツダム条約から発生する連合国および日本国の権利および義務を説き明かし、次に伊藤博文の憲法義解を用いて帝国憲法はポツダム条約と矛盾せず、ポツダム条約が日本国に要求する「デモクラシー的傾向の復活強化に対する一切の障礙を除去すべし。言論、宗教及思想の自由並に基本的人権の尊重は確立せらる」ことと「日本国国民の自由に表明せる意思に従い平和的傾向を有し且責任ある政府が樹立せらるる」ことの達成は帝国憲法の改正を必要としないことを証明しなければならない。

 つまり1907年ハーグ陸戦法規第43条を根拠に帝国憲法の改正=日本国憲法の制定の無効を主張する者は、第43条の沿革、ポツダム条約、そして帝国憲法を詳細に解説しなければならないのである。

 それならば、帝国憲法を根拠に帝国憲法の改正=日本国憲法の制定の無効を主張する方が、極めて簡単である。

 「字句にこだわる者は法文の表皮を知るのみ」という法学徒を戒める言葉を添え、帝国憲法第75条と其の立法意思である憲法義解第75条解説を提示して、帝国憲法の改正=日本国憲法の制定は、国家変局時の憲法および皇室典範の改正を禁じる帝国憲法第75条違反であるから無効と言えばいい。

 帝国憲法第七十五条「憲法及皇室典範は摂政を置くの間之を変更することを得ず」

 「恭て按ずるに、摂政を置くは国の変局にして其の常に非ざるなり。故に摂政は統治権を行うこと天皇に異ならずと雖、憲法及皇室典範の何等の変更も之を摂政の断定に任ぜざるは、国家及皇室に於ける根本条則の至重なること固より仮摂の位置の上に在り、而して天皇の外何人も改正の大事を行うこと能わざるなり。」(伊藤博文著憲法義解第七十五条解説)

 これで足りなければ、ダグラス・マッカーサーの発議(マッカーサー・ノート三原則)によって行われた帝国憲法の改正=日本国憲法の制定は、帝国憲法勅語「将来若此の憲法の或る条章を改定するの必要なる時宜を見るに至らば朕及朕が継統の子孫は発議の権を執り之を議会に付し議会は此の憲法に定めたる要件に依り之を議決するの外朕が子孫及び臣民は敢て之が紛更を試みることを得ざるべし」に違反しているから無効と言えばいい。

 以上は、日本語を理解できる日本人ならば誰にでも理解できる極めて簡潔明瞭な法理である。

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