2019年05月02日

軍法会議を開けない自衛隊は軍隊ではない(大日本帝國憲法第六十條)-明治流憲法学奥義秘伝の原稿

 戦場では国内法規に基く行政および司法と公共設備(インフラ)は必ず機能麻痺に陥る。だから戦場で国際法規に基いて戦闘を行う軍隊は行政および司法と公共設備から独立して活動するための自己完結能力を持たなければならない。それゆえ軍隊は自己完結能力の一環として軍事警察(憲兵隊)と軍法会議を運用し、自ら軍法違反者を逮捕、起訴、審判、処罰し、もって軍紀の厳正を保持するのである。

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 枢密院帝國憲法制定会議憲法草案追加條項 特別裁判所の管轄に属すべきものは別に法律を以て之を定む

【枢密院に提出された草案追加條項注解】 無し。

【枢密院に提出された草案追加條項参照】 無し。

【明治の自由民権運動を代表する交詢社系の憲法私案(カッコ内は交詢社)】

第六十一條 裁判は総て法律によりて定まれる裁判所に於て裁判官法律に遵い之れを司る可し特別の裁判を開き特別の裁判官を命じて裁判を司らしむるを得ず(第六十四條 裁判は総て法律を以て定めたる裁判所に於て法律に遵い裁判官之を司どる可し特別の裁判所を開き特別の裁判官を命じて裁判を司らしむべからず)

第六十一條註解

 そもそも人民の自由を保護するに最も必要なるは法の独立不羈これなり。法は國帝と國民と共に遵守すべきものにして立憲政体基礎はすなわち法にありて存するなり。それ法の独立不羈を要するは法の効力を全く他の政権と分離してこれと相関せしめざるにあるなり。もし然らずして権威勢力のために法を左右するが如きあらば國民の幸福得て保全すべからざるなり。故に法官は全く官民と分離して毫も他の政権と関せざる一地歩を占め、ただ法に遵い法を守り法と共に進退すべきのみ。西人曰く、法官は即ち法の一部分なり、故に法に離れて裁判に関するを得ずと。これ本文に法によりて定まれる法廷に於て法に遵って審判すべき旨を掲明する所以なり。即ち法の独立不羈を要するの主意に出でたるものにして、國民の自由を保護せんと欲せば宜しく此かくの如くならざるべからず。フランスに行わるる行政裁判の如き其の他國民の自由不完全なる國に於て特別裁判所を開て一種の勢威を法の上に加うるが如きは國民の自由の滅却するものと云うべし。故に本文に於て特に此の意を明にせり。


 枢密院帝國憲法制定会議では、草案第六十條の可決後、寺島宗則が次のように新案の挿入を提議した。

 「本條の次、原案第六十一條の前に一條を新設し、之を第六十一條とし、原案第六十一條を第六十二條とせん事を委員に於て議決せり。新案の主意は山田氏より弁ずべし。」

 その新案は「特別裁判所の管轄に属すべきものは別に法律を以て之を定む」であり、憲法施行後の必要に応じて特別裁判所の設置を可能にする趣旨の規定であった。

 山田顕義法相は新案の趣旨を次のように説明した。

 「特別裁判所とは、行政裁判の外、権限、商法、職工、船舶というが如き種々の裁判所あり、これをいうなり。各國の憲法には一々これを列記せるものあり。我が國においては民法、商法、等の関係よりして、将来尚種々の裁判所を要すべきにより、今予め一々これを列挙するを得ず。只特別裁判所と成し本條を加えんとす。」

 新案第六十一條は異議なく可決され、第二審会議によって第六十條に移された後、明治天皇の御裁可を得て、大日本帝國憲法第六十條「特別裁判所の管轄に属すべきものは別に法律を以て之を定む」となった。

【帝國憲法義解第六十條解説】

 陸海軍人の軍法会議に属するは、即ち、普通なる司法裁判所の外に於ける特別裁判所の管轄に属するものとす。其の他商工の為に商工裁判所を設くるの必要あるに至らば、亦普通の民事裁判の外に特別の管轄に属するものとす。凡そ此れ皆法律を以て之を規定すべくして、命令を以て法律の除外例を設けることを得ず。
 若しそれ法律の外に於て非常裁判を設け、行政の勢威を以て司法権を侵蝕し、人民の為に司直の府を褫奪するが如きは、憲法の之を認めざる所なり。


 帝國憲法下の法律は必ず帝國議会の協賛すなわち承認を経なければならないので、帝國憲法によって規定される法律事項はすべて帝國議会の承認事項(憲法第五條および第三十七條)であり、改正可能事項(憲法第三十八條)である。

 軍法会議を含む特別裁判所の管轄は法律事項であるから、軍法会議の形式手続は軍内自律型単審制であるべきか、軍内自律型複審制であるべきか、あるいは最終審判を最高裁判所に仰ぐ軍内下級審制(アメリカ型)であるべきかは、すべて特別裁判所の管轄を規定する法律案の可否を審議し議決する帝國議会と議会に代表を送り込む有権者たる國民が決定するのである。

 特別裁判所の管轄と同じく法律事項である國民の兵役義務(憲法第二十條)もそうである。國民の兵役義務を2年間にすべきか、あるいは兵役義務を徹底的に簡素化して徴兵制度を休止ないし廃止すべきか、國内の防衛に限定すべきか否か、すべて國民の兵役義務を規定する法律案の可否を審議する帝国議会と有権者が決定するのである。

<例、徴兵制を休止するための兵役法>

第一條 日本臣民は満十八歳の誕生日から一年以内に國防省兵役局登録事務所に出頭し、以下の兵役を履行しなければならない。

一、大日本帝國憲法を誠実に遵守することを宣誓する。
二、帝國の独立と生存と光栄を防衛することを宣誓する。
三、國防省の発行する書籍「民間防衛」と「軍人操典」を受領する。
四、司法省の発行する書籍「大日本帝國憲法義解」を受領する。
五、宣誓書と受領書に署名と指紋捺印を行い、それらを国防省に提出する。

第二條 第一條の兵役義務を履行しない日本臣民は衆議院に対する参政権を行使できない。

 軍法会議の管轄にしろ、国民の兵役義務にしろ、国民を含む国家の生存と同義である国家の軍事防衛に関して言えば、国民主権を標榜するGHQ製日本国憲法より、国民主権を否定する大日本帝國憲法の方が、よほど広範に、国民の代表機関である議会および有権者たる国民の政治的選択権を保障している。実際に大正時代の我が国の政府および帝国議会は法律を改正し、軍法会議の抜本的改革を行った。

東京朝日新聞 1920.12.22 (大正9年)神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 軍事国防10-067

陸軍治罪法改正要旨

 陸軍治罪法は明治二十一年の制定に係り条数僅に百一条より成る急捷簡便を尚ぶ軍裁判手続とは云え、其の規定簡短に過ぎ、訴訟の形式を備えず。即ち公訴あるに非ず、公訴の原告官あるに非ず、原告被告法廷に立て互に攻撃防禦の方法を尽して後裁判官判決を為すに非ず。審理は長官の命令に因り始まり、裁判官は軍人のみを以て之に充て、其の審理判決は之を公開せず、被告人は弁護人を附するの制無く、裁判あるも長官の命令を受くるに非ざれば之を宣告することを得ず。裁判は一審即ち終審にして上訴を許さざる等只管軍紀保持の目的に偏重して審理手続きを簡易ならしめんことを努めたるものなるが故に、裁判の公正を確保し且被告人の利益を保護する点に於て欠如するもの少しとせず。是其改正を要する所以なり。

 改正案の要旨及主なる改正の事項を挙ぐれば、改正案は広く諸国の立法例を参酌し、大綱に於て軍紀を保持し軍の利益を保護することを目的とすると共に、裁判の公正を確保し及被告人の利益を保護する点に於て特に周到なる用意を為したるものなり。而して其の訴訟手続に付ては軍の利益を害せず軍裁判手続の精神に戻らざる限りは可成元法律取調委員会に於て起草せる刑事訴訟法改正案の規定に倣わんことを努め、而して刑事訴訟法の改正に先ち此等の規定を実行して支障無からしめんが為には特に規定を設けたり。

 以上の趣旨に依り編成したる陸軍軍法会議法案は五百六十二条より成り之を第一編軍法会議第二編訴訟手続及附則に分類す。第一編は之を軍法会議の裁判権軍法会議の管轄権、軍法会議の職員、審判機関、予審機関、検察機関の六章と為し第二編は之を総則、始審、上告、再審、裁判の執行の五章と為し、総則を更に細別して裁判官の除斥及回避、弁護及輔佐、裁判、書類送達、期間、被告人の召喚拘引及拘留、被告人の訊問、押収及捜索、検証、証人訊問、鑑定、通訳の十三節と為し、始審を細別して捜査、予審、公訴、公判の四節と為したり。而して治罪法なる名称は之を改めて軍法会議法と為したり。第二編訴訟手続の外第一編に普通法裁判所構成法に相当する規定を設けたるに由る。

 現行陸軍治罪法に改正を加えたる主要なる項目凡左の如し。

一、軍法会議の裁判は長官の認可を経るに非ざれば宣告することを得ざるの制を改め裁判は軍法会議独立の権限を以て之を行うものと為し且法文を以て其の審判には他の干渉を受くることなき旨を明にしたり

二、軍法会議の審判を秘密にするの制を改め之を公開するを原則とすることとしたり

三、軍法会議の審理に於て新に弁護人の弁護を許すの制を設けたり

四、法令の違背を理由とする上告の制を設けたり

五、軍法会議の名称裁判権及管轄に変更を加えたり
 軍法会議の名称に付ては師管に軍法会議を設くるの制を改め軍の司令権と裁判管轄とを成るべく一致せしむるの趣旨を以て軍法会議を師団に設くることとし其の他軍中に在りては軍団、師団混成旅団に軍法会議を設くるの制を改め必要に因り軍、独立師団及独立混成旅団に之を設くることとし且新に兵站に軍法会議を設くるを得ることとし尚従来単行法の規定に依り設くることを得たる臨時軍法会議に付ては規定を改正案中に移されたるが故に之に応じて夫々名称を改めたり

六、軍法会議職員の名称を改めたり現行法に於ける理事の名称は他に幾多疑似の名称ありて不可なるが故に之を法務官と改め陸軍警守は改正案に於ては書類の送達令状の執行等の外犯罪捜査に補助を為さしむる者なるを以て是亦其の名称を適当ならずとして陸軍警査と改めたり

七、現行法に於て専門法官たる理事は主として審問(予審に相当す)に従事し裁判官たらざるの制を改め之を裁判官即審判機関の一員に加えたり
 又裁判官は判士長判士と称して悉く将校を以て之に充つるの規定なれども改正案に於ては軍人裁判官中に専門裁判官を加うることとし高等軍法会議の裁判官中に二名其の他の軍法会議の裁判官中に一名の法務官を交うることとしたり

八、法務官を終身官とし且其の身分を保障するの規定を本案中に設け従来の理事分限令は之を廃することとしたり

九、新に検察官を置き之をして捜査を為し公訴を行わしむることとしたり
 現行法は公訴に提起の制なく随て其の提起機関の設けなきも改正案は新に公訴の制を設け検察官を置き之をして公訴の原告官と為し長官に隷属して捜査を為し公訴を行うべき者としたり而して検察官たるべき者は法務官中より長官之を命ずることとしたり

十、捜査権の系統及捜査各官憲の権域を明にし且憲兵を以て陸軍司法警察官と為したり
 憲兵は陸軍治罪法に於て捜査権を有し普通警察官は軍人軍属の犯罪に付ては現行犯の場合に限り特別処分を為すを得るの権限を有するに過ぎざるも改正案は之を改め陸軍司法警察官を設け憲兵及陸軍大臣の指定したる普通司法警察官を以て之に充て之をして等しく陸軍司法警察の職務を執らしめ尚長官、隊長に亦現行制に於けるか如く部下の犯罪に関しては捜査権を有せしむることとしたり

十一、裁判官の除斥、回避の制を設け且検察官及被告人より長官に裁判官の変更を具申し得るの規定を設けたり

十二、現行法には勾留を受けたる被告人に保釈を許すの規定なきも之を改め軍人軍属に非ざる被告人に付ては保釈を許し軍人軍属には旧に仍り責付のみを許すこととしたり

十三、検察官捜査中強制の処分を要するときは其の処分を予審官に請求するを得るの規定を設けたり

十四、現行法に於ける審問に相当する処分を予審と改め判決に相当する審級を公判と改めたり
 予審は旧に仍り専門法官たる法務官之に任ずることとしたり

十五、欠席裁判の制を廃したり

十六、再審に関する規定に変更を加えたり

十七、新に執行に関する規定を設けたり


 我が国の自衛隊は帝國陸海軍とは違い軍法会議を開けないので検察庁(行政)と裁判所(司法)に依存して隊紀を維持している。従って検察庁と裁判所が必ず機能不全に陥る日本有事の際には、自衛隊法の罰則規定が死刑を欠くなど恐ろしく甘いことと相俟って、自衛隊は隊紀を維持できず内部崩壊するであろう。自衛隊は軍隊に必要な自己完結能力を完全に獲得できおらず、依然として法的組織的には軍隊並みの重武装を持つ警察なのである。

 元潜水艦艦長の中村秀樹氏は海上自衛隊に実戦能力がないことをシビリアンコントロールを行う有権者たる国民に訴え、次のように警鐘を鳴らしている。

「また、国内法上の問題で規律が維持できない虞がある。それは軍刑法がないことだが、この深刻さもまた理解されていない。軍刑法がないため、規律違反の隊員に対する処置は一般の刑法や自衛隊法違反で裁くことになる。軍法会議がない以上、三審制の長期の裁判を覚悟せねばならない。戦争遂行を不可能とする軍規違反(そもそも軍規さえ存在しないが)が生起しても、その裁判が長期にわたり結審には何年もかかる。これでは違反に対する抑止効果がないので、規律違反や犯罪を防止できるわけがない。これでは、有事敵前逃亡が頻発するほか、規律維持も困難であろう。

 社会的な重大事件や悪質凶悪事件の裁判の長期化と判決の内容には、読者も疑問と不満をもたれているだろう。そういう我が国の司法の現実を踏まえれば、有事に自衛官の職務離脱や命令違反が大量(数十件でも十分に大量)に発生して、警務隊や司法当局の能力を超えてしまうことは想像に難くない。死ぬよりは長い裁判で拘留されることを選ぶ不心得者は、数名ではすむまい。

 日本社会の特殊事情として、裁判闘争に国内の特定政治勢力が介入することも、考慮すべきであろう。戦時の自衛官による職務離脱という重大犯罪を、平和のためと正当化する論法は、日本では必ずしも異常なことではない、というのも残念ながら現実である。それらの勢力は、敵国に友好的である可能性も高いことを考えれば、敵前逃亡などを教唆煽動する事態まで心配するのは、杞憂ではあるまい。」
本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 248ページ)。

 軍事組織の精強は先ず軍紀の厳正より生じるので、軍紀の厳正を保つための軍法会議の運用は軍事組織の要諦(物事の最も大切なところ、肝心かなめの点)である。我が国がGHQによって軍隊の運用を放棄させられてからすでに70余年が経過し、我々日本国民は軍法会議の運用を再開できるかどうか。それは恐ろしく困難な作業であろう。しかし日本国民は韓国人と違い漢字を読めるので、改正陸海空軍事法(尾山万次郎著/昭和18年発行/国立国会図書館デジタルコレクション)収録の陸海軍軍法会議法を熟読し理解し模倣し改良し現用化することはできる。

 GHQ製日本国憲法に自衛隊を明記する憲法第9条改正は、自衛隊の自己完結能力に欠けている部分を補充しないので、国防の強化には全く役に立たない。それよりも、政府と国会が、自衛隊法の罰則規定を強化しつつ、GHQ製日本国憲法第76条に基づき、家庭裁判所に倣い、最高裁判所に最終審判を仰ぐ自衛隊用の下級裁判所を防衛省自衛隊内に設置し、これを軍法会議を代替する軍事裁判所として自衛隊に運用させる方が、よほど国防の強化に役立つ。これは自衛隊内の法務官を育て、自衛隊員を含む日本国民の軍法会議運用能力を徐々に再生し、将来の我が国が国軍を再建しあるいは国防軍を創設するための準備となるからである。

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