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2015年08月15日

日本憲政史上もっとも凶悪な内閣総理大臣(近衛文麿)を非難しない究極の愚行

 中川八洋教授は昭和20年2月14日の近衛上奏文を次のように批評している。

「近衛文麿が対英米戦争主義者でなかったかのような偽イメージ、あるいは近衛文麿がマルクス主義者でなかったかのような偽イメージをつくる、近衛自身による自己演技の最たるものがあの有名な近衛上奏文であろう。それは日中戦争と日米戦争の八年戦争のすべての責任を軍部に転嫁するに絶妙で華麗な演技の典型であった。

 この上奏文をもって近衛文麿が従前から英米に対する戦争の回避論者であったと、その証拠としてあげるものが多いが、それは余りにも短絡的である。また読解力に欠陥ありといわざるをえない。一九三七年六月の総理大臣就任以降の、近衛文麿の言葉ではなくその行動と明らかに矛盾する解釈であり、歴史の偽造をさらに増幅する歪曲である。政治家の評価・分析は、その言葉ではなくその行動でなすものであって、その逆は学問ではない。

 近衛上奏文は、日本の八年戦争とは日本の共産化を目的として共産主義者(マルクス主義者、社会主義者)たちによって遂行されてきたこと、一九四四年頃からのスローガン一億玉砕はレーニンの敗戦革命論に従った、共産革命がし易い荒廃した日本社会をつくるためのものであること、陸士・陸大の秀才組のある部分がソ連軍を日本に導入しての日本の共産化を策謀していること、などの最も深刻な諸状況について最も正確に鋭く核心を衝く省察をなしている。

 が同時に、この近衛の指摘は、マルクス主義にかぶれた陸士・陸大卒の赤い軍人たちに対英米戦とその継戦の動きのすべての責任を転嫁する狙いであるのは誰しも一読すれば理解できよう。」(近衛文麿とルーズベルト大東亜戦争の真実76、81頁)


 近衛上奏文および近衛文麿に対する中川教授の評価が正しいことは、以下の大本営陸軍部戦争指導班機密戦争日誌(軍事史学会編/錦正社、1998年)昭和20年6月25日の条によって証明される。

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大本営陸軍部戦争指導班機密戦争日誌昭和二十年
六月二十五日 月曜
沖縄終戦ニ関スル大本営発表アリ。襟ヲ正シテ自省自奮アルノミ、
右ニ伴フ明日行フヘキ総理談又ハ告諭ニ付内閣ニ於テ討議ノ結果告諭トシテ発表スルコトヽナレリ。
午後五時発小田原山荘ニ近衛公ヲ訪ル(種村)、途中国府津ニテ岡村憲兵ト奇遇スルアリ秘密行ス。政談ヲ一切抜キニシテ専ラ軍事情勢ニツキ公ニ本土決戦必勝ノ信念ヲ与フル如ク力説スルコト三時間公ヲシテ電燈ヲトリテ門前ニ予ヲ送ラシムルニ至ル。
惓モ死児ノ齢ヲ数フルカ如シト前提シテ公三国同盟ノ締結及独「ソ」開戦当時、大東亜戦争前等ヲ思ヒ感慨深ク語ル
食料問題ハ大政治問題化スヘシトテ陸戦隊化シタル海軍ノ整備ヲ論ス。
再会ヲ約シテ去ル、一重臣ヲシテ戦意ニ燃エシメタリトセハ千万人ト雖モ我往カン。
午後十一時三十分徒歩三十分ニシテ湯本吉池旅館ニ永井少将ヲ訪レ同宿御見舞ス。
箱根街道ハ三百年前ノ昔ノ如ク深夜人ナシ。感激深シ。
公曰ク「此ノ次ハ陸軍ノ時代ナリ宜シク御奮闘ヲ祈ル」ト


 近衛文麿と秘密会談を行った陸軍省軍務課高級課員の種村佐孝陸軍大佐こそ参謀本部戦争指導班長の松谷誠陸軍大佐とともに一億玉砕を提唱し、東アジア全域をソ連に提供して日ソ支(中国共産党)三国共産同盟の実現を画策した「マルクス主義にかぶれた陸士・陸大卒の赤い軍人たち」の中心的人物であった。

 近衛はその種村大佐に対して直接的に「此ノ次ハ陸軍ノ時代ナリ宜シク御奮闘ヲ祈ル」と激励し、彼らが主張する本土決戦を煽動したのである。

 因みに種村佐孝が大本営陸軍部戦争指導班機密戦争日誌を基にして執筆し公刊した大本営機密日誌(種村佐孝著/昭和27年ダイヤモンド出版、昭和54年芙蓉書房より復刊)には次のように書かれている。

大本営機密日誌

昭和二十年六月二十五日 近衛公に早期終戦を進言

沖縄戦終熄に関する大本営発表があった。ただ襟を正し自省自奮あるのみであった。
私は意を決して、午後五時東京発、小田原山荘に重臣近衛文麿公を訪ねた。
専ら近衛公が知らない陸海軍の軍事情勢、なかんづく近代戦の遂行が困難となるくらいに底をつかんとしている陸海軍戦力及び進行中の本土決戦準備の内容等を説明し、「今や政治家が国家の前途を決する時期であり、対ソ問題こそまずその努力の焦点である」ことを力説した。
質疑応答三時間。平素は聞き上手といわれた近衛公は、今日は語ることもまたしきりであった。
あたかも死児の齢を数うるに等しいが、と前提して、三国同盟締結時、独ソ開戦時、大東亜戦争前等を回想しては、しばし瞑目感慨深げであった。現在は海軍が陸に上がってしまったこと、関東軍が張子の虎になったことを聞いてはびっくりし、食料問題の実情を聞いては「それこそ政治問題化するだろう」といった。久しく満洲国境守備に勤務している長男文隆君の身上に想いをはせているようだった。辞するとき、公自ら懐中電灯を持って先に立ち、山門に私を送られた。時に十一時半をすぎていた。


 種村佐孝が読者を欺くために大本営機密日誌に改竄を施していたことは一目瞭然であろう。敗戦後の種村も近衛文麿の元ブレーンたちと同じく近衛文麿の正体を隠蔽していたのである。

 大本営陸軍部戦争指導班機密戦争日誌(軍事史学会編/錦正社、1998年)昭和20年6月25日の条および麻生久(社会大衆党書記長)が河野密に語った次の秘話を知るに至った戦史学徒は、この二つの史料の他にも近衛に関する多数の第一次史料を読んだ筆者のように「一億玉砕を叫ぶ声次第に勢を加えつつありと存候。かかる主張をなす者は所謂右翼者流なるも背後より之を煽動しつつあるは、之によりて国内を混乱に陥れ遂に革命の目的を達せんとする共産分子とは近衛自身である」とまでは断定できないとしても(笑)、近衛文麿を我が国の憲政史上もっとも凶悪な内閣総理大臣として徹底糾弾せざるを得なくなるだろう。

「昭和十三年二月、第七十三議会の開会中、防共護国団による政友、民政両党の本部占拠があった。これをやったのは中溝多摩吉であるが、彼を背後から踊らしてやったのは近衛であった。国会開会中にその離れ業をやらして口を拭ってしゃあしゃあとしている度胸。これは革新をやるに足る人物だと思って自分は近衛に接近する気になった。日本の革新は、明治維新の革新でもそうだが、下から丈けでは出来ないので、上と下を結びつかなければ駄目である。それには近衛の門地と家柄はあつらえ向きである。」(河上丈太郎編【麻生久伝】四七八頁)

 筆者が繰り返し強調することは、日本国民あるいは中華民国人が日華事変および大東亜戦争を日本の侵略戦争と非難しながら、日華事変を拡大長期化させた近衛文麿および朝日新聞出身のソ連スパイ尾崎秀実をはじめ近衛のブレーントラスト昭和研究会に結集した共産主義者たちを非難しないのは、あたかもアベノミクスを非難しながら安倍晋三とそのブレーンたちを非難しないことに等しい究極の愚行である。

 ポツダム宣言の受諾から70年後にあたる2015年8月に筆者が見聞した日本のマスコミは、残念ながらことごとく究極の愚行を重ねる愚人の群れであった。

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posted by 森羅万象の歴史家 at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 過去を旅する歴史コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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